曲をクラシック風にアレンジするには?


まらしぃさんが新作の動画を見たのだが、なんかひどく単調なアレンジだなぁと思った。


進撃の巨人OP】「紅蓮の弓矢」を弾いてみた【ピアノ】

もちろん、一曲にかける時間にはムラがあるわけで、あまり編曲や練習のために時間をかけて撮影していない動画に対して、時間をかけて編曲し、十分に練習したのちに撮影された動画と比較してどうのこうの言うのは本来間違っていることではある。


まらしぃさんがうまいだの下手だの言うつもりは私には毛頭なく、もう少し音楽的な可能性を考えてみたいという意味において、ここでAnimenzさんの同じ曲に対するピアノ演奏動画を参考のために挙げる。


Guren no Yumiya - Shingeki no Kyojin OP [Piano]


Animenzさんは日本では無名に近いかも知れないが、アニメ曲を中心にピアノアレンジをしてYouTubeに動画を数多くアップされていて、動画の再生回数はまらしぃさんにも迫る勢いだ。


Animenzさんはクラシックっぽいアレンジがお好きらしく、例えば未来日記のOP「空想メソロギヰ」は次のような演奏になっている。


Kuusou Mesorogiwi - Mirai Nikki OP 1 [piano]


次の動画は原曲である。


未来日記 OP フル 「空想メソロギヰ」 【歌詞】


出来れば原曲と聴き比べてもらいたい。原曲よりずいぶんとピアニスティックな仕上がりになっている。ぶっちゃけ、原曲よりいい感じの仕上がりになっていると思う。この曲をこのような形にアレンジしていく過程についてAnimenzさんが自身のブログに書いているので、以下に翻訳したものを書いておく。


■ 以下は、翻訳記事。
(元記事 : http://animenz.wordpress.com/how-to-arrange-in-classical-style/ )


今日は、私がいままでやったなかでもっとも変わった編曲についてお見せしよう。未来日記のオープニングのクラシック風のアレンジだ。


この編曲はいくつかの観点において特別である。なぜなら、


・楽譜全体の3分の1は完全にオリジナル要素だ。これにより、編曲をより完全にし、クラシック風に仕立てている。
・これはそこそこ演奏が難しく、演奏には相応のテクニックが必要である。
・私がいままで書いたなかで最も長い楽譜である。(8ページ)
・100%編曲に満足するまで、ここ数日で150回以上修正した。おかげで、終わるまでにずいぶん時間を要した。


楽譜のダウンロード
[Kuusou Mesorogiwi pdf + midi] (difficulty: insane)
http://sheethost.com/sheet/r7hZjR


注意。以下の文章は、私の編曲に対する信じられないほど長い音楽的な解説であり、読者の99%は退屈であろう。しかし、ある種の人々には、この手の編曲が興味深いということがわかるかも知れないちょっとした機会であろう。基本的な音楽的知識があるといいかも。



さて、あなたが、すでに私の編曲したものを聴いてくれたとして、あなたはこう思ったかも知れない。「なんだ? なぜ、この冒頭にオリジナル要素を追加したんだ?」


そうだな、私は編曲テクニックのちょっとした実験をしたかった。だから、何か新しいことをやってみたくなり、曲の終わりにつける代わりに冒頭のところにオリジナルの小節を追加した。


いまから、そのオリジナルの区分(26小節ある)がここ数日でどのように発展してきたかを説明しよう。


この曲の導入部である、1つ目のテーマを見てみよう。



この曲の冒頭は私にはコラールのように聴こえた(わかりやすく言えば、合唱団が歌ってるみたいだということだ)、そして、私はこういう仰々しいサウンドが本当に好きなのだ。(私はヴォーカル作品のファンである)


残念なことに、この部分は4小節しかなく、ギターのリフが突然割り込んでくる。それにより、この小さな導入部は中断してしまう。


だから、私はこの最初のテーマをバロック風のプレリュード(前奏曲)を書くことによってこの部分を引き延ばそうと決意した。


もちろん、単にでたらめに追加するというんじゃなくて、最初のテーマですでに提供されていたたくさんの音楽的な素材を使う。


例えば、私のオリジナルの区分の冒頭は、1つ目のテーマの右手パートから始まる。



5小節目から6小節目にかけて、1つ目のテーマの右手。



これは基本的に最初のテーマのバリエーションである。左手にも同じ和音があることに注意。


このバリエーションは、最初のテーマをさらにスピードアップさせたもので、右手に16分音符がある。これは、のちにくるテーマの伏線を兼ねている。




ここは同じ音符を含んでいる。これは似たリズム・パターンでもある。



さらに言うなら、私は下方向の移動の一種である新しいモチーフを導入した。これは1つ目のテーマの最初に現れる。



そして、6-7小節目の右手にも現れる。



続いて8小節目の左手にも。



そのあと9-14小節目の右手にも再び。



私は最近バッハをたくさん弾いていて、彼のピアノ作品には多くのcircle progression(訳注:五度圏を反時計回り、すなわち、上四度進行を繰り返すコード進行)が使われていることに気づいた。だから、私はこの曲を発展させるために同じ方法を用いたのだ。正確に言うなら、このcircle progressionは3度使った。一つ目は冒頭(四分音符)





もう一つは真ん中(左手のみ示す)





最後の一つは、終わりの方。





バロック風の部分の荒々しいオクターブの前に、私は最初のテーマの適切なフィナーレを追加したかった。だから、1つ目のテーマの終わりに現れるこのメロディーを持ってきた。





そして、この小さなモチーフでフガートを作った。(訳注 : フガート(fugato)とは、交響曲などの一部に現れるフーガのような部分。簡単に言うと、音の高さを変えて同じモチーフが繰り返されること。) 威風堂々たる感覚を得るために、私は多くのオクターブと多くのコードを右手に追加した。それは鍵盤の上半分をほとんどカバーする。



獰猛なオクターブが割り込んでくる前のブリッジも、1つ目のテーマの最初の小さなモチーフから作った。



大事なことをひとつ言い残していたが、私はこの編曲のなかにLisztのパロディを追加した。24から28小節目にあるこのまだらの狂気じみたオクターブは、Lisztのピアノ協奏曲 No.1とほとんど同じものだ。オリジナルの区間に適切な終止を与える。(原曲にある突然のギターのリフと等価である) 私は、バタンとそれを終わらせようと思い、巨匠Lisztのピアノ協奏曲の導入部はどうか?と考えた。偶然にもLisztピアノ協奏曲と同じキーである。(Lisztのピアノ協奏曲は実際はE♭ majorであるが、今回の曲に適合する)





Lisztピアノ協奏曲 No.1の原曲のピアノ譜。




今回の編曲では、若干変更してある。



さて、いまのところ以上が言うべきすべてである。言い忘れている隠されたモチーフが他にもあるだろうが、読者はもうすでに疲れているだろうから、これぐらいにしておこうと思う。


ところで、私はこの曲以外の自分のいままでの編曲に関しても、上で見てきたような「隠されたモチーフ」(を発展させていく編曲技法)を、時折使ってきた。


あなたが興味を持ってくれるといいのだけど。