ミクさんは本当にエコシステムを形成するのか?
初音ミクほど、世間の関心が強ければ、そこに関わる人の数も膨大だ。
例えば、YouTubeで人気のボカロ曲を再生したとしよう。「いい曲だ」と思ったので、そのピアノ譜を入手しようと考えた。これは、比較的たやすい。ボカロ楽譜のみを整理して紹介しているサイトは多数あるし、その曲をピアノ用にアレンジしている人も何人かいるのが普通であるから、(誰が採譜したものでも良ければ)楽譜を入手したり、他の人のアレンジを見て勉強したりすることも出来るかも知れない。
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なんてことを、今月号の美術手帖を見ながら思ったのだが、とりわけ音楽に関してはそう単純な話でもないような気がする。
話を進める前に、今月号の美術手帖だが、100ページ以上、初音ミクの特集がある。美術手帖、名前は知っていたが、まさか自分が買うことになるとは思わなかった。いや、荒木 飛呂彦特集のときは、買おうかどうか迷って、結局買わなかったのだが。
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ついでにミクさんと言えば、MIKU-Pack 02の発売日が今日である。こちらはアマゾンで発売日前に予約したもののまだ届いていないのでなんとも…。
MIKU-Pack (ミクパック) 02 music&artworks feat. 初音ミク 2013年 07月号 [雑誌]
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話をもう少し先に進めよう。
初音ミクも初期のころは、あるボカロ曲をまらしぃさん(ニコニコ動画で最も知名度があるピアノプレイヤー)がアレンジしつつ演奏し、それを誰かが採譜し公開するなんて流れは珍しくはなかった。
しかし、2013年現在、もうそういう時期は終わったのかなという気はする。
ボカロの市販されているピアノ譜に対象を絞ると、比較的面白い現象が観察できる。
例えば、以下の「月刊ピアノ2013年4月号増刊 ピアノで弾きたいボカロ曲Best Selection2013春」である。
「2013年春」と銘打っているのに収録されている曲の半分ぐらいは2010年以前の曲である。
ピアノで弾きたいボカロ曲Best Selection2013春 (月刊ピアノ2013年4月号増刊)
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こういう編纂がなされる理由は私にはよくわからない。新曲(2012年後半以降の作品)のみに絞った楽譜集というのは、商業的に成り立たないのかも知れないし、もしかすると、2011年ぐらいから急速にボカロ曲(の新曲)が急激に求心力を失ってきているのかも知れない。
ともかく、「2013年度版」だとか、「最新」だとか書いてあっても半分ぐらいは昔の曲が再収録されているのが市販のボカロ楽譜の特徴である。
いま、「再収録」と書いたが、本当に全く同じ譜面である。「やさしく弾ける ボカロなんとか」に収録された譜面が、「ボカロ なんとか 中級」に収録され、「ピアノで弾きたい ボカロなんとか」に収録されるということもあるが、どれもこれも全く同じ譜面である。(こうして見ると最初の「やさしく弾ける」とはなんだったのかという気もするが…)
なぜこのような現象が起きるかというと、同じ出版社の場合、一度採譜したものをわざわざ別の人に採譜させることは無駄なのでそのまま流用するからである。
市販のボカロ曲の楽譜のほとんどは
1) ヤマハミュージックメディア
2) デプロMP
の二社である。
好みの問題かも知れないが、デプロのほうは、全体的に採譜者のセンスが悪いように思う。ベース・ラインがオクターブの交互押しが多く、つまらないことこの上ないし、採譜上のミスも目立つし、間奏のメロディラインの上に和音が積まれてたりして、原曲っぽさがぶち壊しになっていることも珍しくない。総じて、この出版社は編集時のチェックが甘いのかも知れない。個人的にはお勧めできないが、ヤマハミュージックメディアが同じ曲の譜面を出しているとは限らないので仕方ないときもある。
ともかく、そんな事情なので前者のヤマハミュージックメディアに関してもう少し話を進めていく。
ここの出版物として、月刊ピアノがある。月刊ピアノでは2012年10月号から、
・紅い流星のこうやって弾いてみて☆彡
・まらしぃのぴあまら!-目指せ♪それっぽく♪♪〜
という、紅い流星さん(偶数月)とまらしぃさん(奇数月)が交互にボカロ曲を紹介し、簡単なアドバイスを添えるという企画が始まっている。
ただ、このアドバイスは、本当に簡単なものだし(作曲の初歩ぐらいの内容)、しかも同じ号に掲載されている譜面自体は別の人が採譜したものなのが残念なところ。まらしぃさんらが採譜(アレンジ)したものを掲載するわけにはいかないのだろうか…。
あと、月刊ピアノで取り上げられる曲は比較的新しい曲なのだが、さきほどから書いているように、ヤマハミュージックメディアの他の出版物でも同じ楽譜が使いまわされるため、月刊ピアノ増刊だとか、ピアノソロ ボーカロイド Best Selectionだとかすべて同じ楽譜である。
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それで、この月刊ピアノ増刊号に収録されている曲を去年のものと今年のものとで比較してみると、
・月刊ピアノ2012年7月号増刊 ボカロ曲を弾いてみよう
・月刊ピアノ2013年4月号増刊 ピアノで弾きたいボカロ曲Best Selection2013春
以下の6曲が両方に収録されている。
メランコリック(Junky feat.鏡音リン)
千本桜(黒うさ feat. 初音ミク)
ココロ(トラボルタ feat.鏡音リン)
ロミオとシンデレラ(doriko feat.初音ミク)
メルト(supercell feat. 初音ミク)
ワールドイズマイン(supercell feat. 初音ミク)
収録曲は読者投票によるものなのかも知れないが、これらの曲を再収録をする意味があるのだろうか…。
以上、駆け足で、ボカロ関係のピアノ譜について見てきた。
言うまでもないことだが、アマチュアが採譜したものよりは、ヤマハミュージックメディアの楽譜のほうが、丁寧に採譜してあるし、弾きやすく、そして楽譜も読みやすい。
それを考えると、ヤマハミュージックメディアにはもっと頑張って欲しいのだが(同じ曲でも演奏難度別の譜面を用意するだとか、再収録曲なしで出版していくだとか)、ボカロのいまの状況だといま以上のテコ入れは難しいのかも知れない。
ボカロ曲が、ぷりんと楽譜のように一曲単位でオンデマンドで購入でき、ボカロ動画を見てすぐにプロの採譜した楽譜が購入できるのが理想だと思うのだが、そこまで到達するにはまだいくらかの道のりがありそうだ。
結論的には、ボカロぐらい大きなムーブメントであれば、楽譜も比較的容易に入手できるだろうという考えは甘いのかも知れない。
ただ、楽譜を買うお金すらない子供(小学生とか)にとって、アマチュアの採譜した楽譜であれば無料で入手できる状況ではあるので、「ボカロ曲が好きで、いろいろネットで楽譜をダウンロードして勉強しているうちにプロの作曲家になりました!」みたいな人も今後出てくるのかも知れない。