リアル子供店長


もうかれこれ20年以上昔の話になるが、私が中学生のときに同級生がマクドナルドでアルバイトをしていた。


15歳以上でないとマクドナルドではアルバイトできない決まりになっているらしく、彼は年齢をごまかして面接に臨んだ。彼は身長も低く、すこぶる童顔で、中学一年なのに小学三年ぐらいにしか見えず、声変わりはもちろんしていない。(ちなみに彼が声変わりしだしたのは成人式のあとだった)


よくそんなので採用されてなぁと思うが、少し郊外だったのでアルバイトの志願者が彼しかいなかったらしく、採用担当者が目をつぶったのではないかと私は思う。


ちなみに彼は学校の文化祭にてクラスで演劇をやることになったときに、お姫様役に選ばれたことがある。あまりに女装が似合っていたので、男子生徒が何人も彼のスカートを面白がってめくって、とうとう彼を泣かせてしまったのはほろ苦い思い出だ。


私は彼がお姫様の格好をしているときにお姫様抱っこをさせてもらったが、彼の体が軽すぎて驚いた。「人間ってこんなに軽いんだ?」と思った。たぶん20kgあるかないかだった。彼の家はすこぶる貧乏だった。いまにして思えば家が貧乏で食べるものを食べてないので彼の発育はすこぶる悪かったのかも知れない。


彼はマクドナルドでのレジではビールケースみたいなものの上に立って接客しているのに、それでもお客さんより目線が低いので、つねに上目遣いの「いらっしゃいませ」 私が冷やかし半分で見に行ったときには、彼はショタ好きのお姉さん(?)にモテモテで、隣のレジがあいているときでも何故か彼のレジにばかり客が並んでいた。彼は休みなしの接客で大変だったそうだ。


彼は家が貧乏なので月に20万円以上アルバイトで稼がないといけないらしかった。しかしアルバイトで月額が8万円(?)を超えると源泉徴収されるらしく、彼は源泉徴収されるのは嫌だからという理由で別のマクドナルドででも働き出した。


彼は次第に学校を休みがちになり、学校を休みながらマクドナルド3店のアルバイトを掛け持ちしていたらしい。マクドナルドのバイトが終わるとその近くのマクドナルドへ自転車で移動。そのバイトが終わるとまた近くのマクドナルドへ自転車で移動というのが彼の日課になっていた。


彼の容姿は特徴的でとても目立つので、お客さんも彼のことを覚えている人が多く、「あれ?さっきあっちの店(マクドナルド)で見ませんでした?」と声をかけられることもしばしばあって、別の店舗でバイトしていることがバイト仲間にバレるとややこしいことになるので、必ず知らないふりをするらしいのだが、そうは言っても彼みたいな容姿の店員がそうそういるはずもないので、お客さんは狐につままれたような顔をしながら帰っていくのが常であった。


彼もそれだけ長時間マクドナルドでアルバイトしていると中学を卒業するころにはアルバイトとしてはもはやベテランの域で、一店ではマネージャー、残りの二店では店長代理(それらの店は店長は実質不在)になった。


こうして、どう見ても小学生にしか見えないリアル子供店長(代理)が誕生したのである。


あるとき、他のアルバイトに何か不手際があったらしく、チンピラの客が「おいコラ!店長呼べや!」とか大声で怒鳴りちらしたので、彼が恐る恐る「ボクが店長(代理)ですけど?」と出て行ったら、そのチンピラの目が点になって「えっ…店長?」「店長です」「んな…子供じゃないっすか…」と怒る気も失せたのか「騒いですみませんでした。お仕事頑張ってください。」とだけ言い残してそのまま帰って行ったのだそうな。


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