食べ過ぎて地獄を見た話


最近、一日一食しか食べてないのに(それも少食なのに)体重がちっとも減らない。運動しないからかも知れない。


15年ぐらい前は、私はともかくよく食べた。食べて食べて食べまくった。それでも体重は全然増えなかった。


当時、勤めていた会社の近くに夢寿司という食べ放題の寿司屋があった。そこで食べまくるのが日課だった。ちなみに夢寿司という寿司屋は全国津々浦々にあるようなので(チェーン店ではない)、ここに出てくる夢寿司は、たぶん、読者の方々が知っている夢寿司とは全く違う夢寿司である。


その当時、とある金曜日にいつものごとく夢寿司に行ったら、夢寿司が閉まっているのである。社員研修のため休業しますとか書かれている。これはいかんと思って急遽、他のものを食べた。しかし一度食べようと思ったものを急遽変更したときの後味の悪さと言ったら、たまらない。そのためか、夢寿司のことがどうしても忘れられず、次の日の土曜になって(土日は会社は休みだ)ああ、夢寿司、夢寿司と夢に出てくるぐらい夢寿司が食いたくなった。


ちなみに、夢寿司はそんなにうまい寿司でもなんでもなく、同じ会社の人に言わせると「780円で食べ放題は安いけど、銀シャリがおむすびぐらいのでかさで、寿司ネタは薄すぎて向こうが透けて見える」と評判は最悪だった。


おむすびはいくらなんでも言い過ぎだろう。シャリの量は普通の回転寿司の1.5倍か、せいぜい2倍ぐらいの量でしかない。ネタも薄いとはいえ、普通の回転寿司ネタの7割ぐらいか、悪くとも4割ぐらいの厚みはある。 「おむすびだなんて、そんなに誇張するのはやめてください!」と私は口角沫を飛ばした。


ともかく、そんな夢寿司が3日も連続で食べられないだなんて考えられないことだった。よし、土日はご飯を抜いて、月曜のお昼に食べまくってやると息巻いて私はご飯を抜いた。


月曜の朝に出社したときには、二日もご飯を食べてないせいでふらふらだったが、なんとか昼休みまで持ちこたえ、夢寿司に直行した。夢にまで見た夢寿司だ。たらふく食べまくってやる!と食べて食べて食べまくった。気がついたときには38皿食べていた。たぶん、普通の回転寿司に換算するとその1.5〜2倍である57〜76皿である。ちなみにその店の歴代記録は48皿で、女性の人なのだそうだ。当時にも、ギャル曽根ちゃんみたいなのが居たんだろうな。


それはそうと38皿も食べるとそれを消化する過程で出る熱量が凄まじいのだ。食べると体全体が熱くなる。これは新発見だった。


あとお腹のなかであとで飲んだ水分を吸収して胃が膨張してはちけそうだ。昼休みが終わったあと、「産まれるうぅぅぅぅぅぅ」とうめきながら、パソコンに向かうものの、もはや仕事が手につかない。上からでも下からでもいいから早くこの食べ過ぎた寿司に体内から出て行ってもらわないと命にかかわる。歩くのもままならない。椅子に座っているのも苦しい。嫌な汗が止まらない。腹の皮を破って、中からエイリアンが出てきそうな勢いだ。


そもそも、こんなことをして一体誰が得しているんだ?


俺→苦しくていまにも死にそう
夢寿司→食いまくられて赤字
俺の勤めている会社→社員がちっとも働かない


3者とも誰もこれっぽっちも得をしていない。誰得を地で行くような光景だ。


体じゅうの血液は胃で消化するのに全力を注ぎ、脳の血液が足りないせいか、めまいがする。肺が圧迫されているのか呼吸が荒い。肋骨が痛い。背骨には針を突き刺すような痛みがある。汗が全身から泉のように吹き出してきてそれがとまらない。トイレの鏡で自分の顔を見たら紫色だった。やばい。なんだこれ。俺は死ぬのか?おい、寿司ぐらいで死ぬのか。俺の命は780円か。


このままでは命にかかわると思い、仕方ないので、口から喉の奥まで指を突っ込んでトイレの便器で寿司を吐き出した。夢寿司の人、もったいないことをしてすみません…。なんかトイレの便器を眺めながら涙がこぼれた。夢寿司、ああ夢寿司よ…夢にまで見た夢寿司だったが、夢は夢でもとんでもない悪夢だったようだ。