0÷0がよくわからない件


小学校の計算問題で「0÷0=」という問題が出て、(その教師の用意していた)答えが「0」だったらしく、その生徒の親に高校の数学教師が居て、「こんなの不定に決まってるだろ」と猛烈に抗議をしたが、その小学校の教師にはその意味が理解できなかった。それで仕方なく校長のところに話を持っていき、なんとか決着がついた。


まあ、それ自体は昔からよくある話なのだが、何故、いまだに小学校で「0÷0」を計算問題として出してしまう小学校の教師が後を絶たないのだろうか。


その理由を簡単に説明する。


私も高校数学の教免(一種)を持っているのだが、まず、「0÷0=」なんて学校で習ったことがない。


小学校のときの計算問題でそんな問題を出されたことは一度もない。要するに知らない。考えたこともない。


しかし、小学校では割り算を掛け算の逆操作として定義していて、
2 × 3 = 6
のような掛け算から、 6÷3=2 を導く。


この定義によると、
△ × 0 = 0 (△は任意の数)
という掛け算から、0÷0 = △ であり、任意の数でいいはずだ。
一つに定まらないと言う意味では「不定」なのだろう。


つまり、演算は出来るけど、答えは定まらない。たぶん小学校の範囲ではそれが答え。だけどそんなことは難しいから、普通小学生に教えない。つまり、これは小学校でやる範囲じゃないんだ、きっと。


中学以降の数学では、等式の両辺を0で割ると等号が崩れるから割ってはならないと散々教えられてきた。0で割るのは、そのような演算自体が不可能であると思わされてきた。


本当は、0での割り算は演算不可能なのではなく、演算は出来るのだけど、等式の両辺を0で割ると等式が崩れるのでそのような操作(等式の両辺を0で割る)を禁止していただけなのかも知れない。このへん中学の数学の時間にきちんと説明をされなかったと思う。よくわからないまま、「0では割れないし割ってはならない」と思わされてきた。そして、それで現実的には何も困ることは無かった。


つまり、0での割り算の答えなんて考えることは一度もなかったし、考える必要もなかった。


高校の数学だと極限の計算で分子と分母がともにゼロになる形は出てくる。それは不定型(indeterminate form)と呼ばれた。しかし不定型の極限値を求める計算では、答え自体が定まらない(=不定)であるものは無く、何らかの数値か、+∞に発散するだとか、そういう問題ばかりだった。


大学の範囲だと、「a÷0」(a≠0)を求めるのは極限の計算として考えるとすると(極限の値と一致するように割り算を定義しようと思うと)、a>0のときを考えても
\lim_{x\to 0+} \frac{a}{x} = +\infty
\lim_{x\to 0-} \frac{a}{x} = -\infty
分母をプラス方向からゼロに近づける場合とマイナス方向からゼロに近づける場合とで答えが違う(関数f(x)=a/xがx=0において不連続)であることから、
\lim_{x\to 0} \frac{a}{x}は定義できないことになるのかなぁ…。a=0のときはどうなるんだろ。
\lim_{(x,y)\to (0,0)} \frac{y}{x} だからこれも同じく答えが定まらず、解析学的には意味のある定義をできないと言うことなのかな…。


ちなみに、Windowsの電卓では、0÷0は「結果が定義されていません」と表示される。(5÷0などの場合は「0で割ることはできません」と表示される。)


そもそも、等式の両辺を0で割ると等号が崩れることさえわかっていれば、「0÷0」の答えを0だと信じていても何ら問題が無いような気はする。


ともかく、「0÷0」なんて習ったこともないし、考えたこともないというのが普通の小学校〜高校の教師なんです。そこんとこヨロシク。


■ 追記(2011/06/07 11:20)


はてブに返信。

MIchimura x÷0は「不能」、0÷0は「不定」って、高校で普通に習った記憶があるけど。昔は教科書に載ってなかったんかね。

私のころの教科書にも「不能」と「不定」という用語自体は載ってましたが、「0÷0」を「不能」とは習わなかったと思います。


高校で出てくる「不能」と「不定」は、前者は「解なし」の意味で、後者は「任意(の数)」の意味です。「不能」が正解なら「解なし」と書いても同義です。


そして、a÷0(a≠0)の答えが「不能」=「解なし」だとする立場とは、つまり割り算を上の本文にあるように掛け算の逆操作として定義していて、△ × 0 = a(a≠0) になるような△は存在しないので「解なし」としているわけです。(たぶん)


しかし、体(代数学的な意味で)の公理体系に従う数学では、一般的算術のゼロ除算は「未定義(undefined)」とするのが普通です。「解なし」ではありません。演算結果自体を定義しないのです。ゼロ除算においては「演算結果が定義されていない」これが答えです。


要するに、小学校の先生が「0÷0=0」だとやってしまう。そうしたら高校の数学の先生が「不定だろ常識的に考えて!」と怒鳴りこんでくる。それを見た大学の数学の教授が「演算結果が定義されてないだろ体の公理体系的に考えて!」とさらにその先生の高校に怒鳴りこんでくる。それを見た高校の教科書作ってる人たちが「いやいや、うちの教科書で高校生のために指導している割り算の定義はおたくの割り算の定義とは違いますから!」とその大学の先生のところに説得しにくる。


そういう話なのだと思うのです…。