コンピュータは人間を追い越すのか?(4)

2四桂同銀3二金1二玉3一馬までの必死


まず、コンピュータは計算が速くて、記憶力もしっかりしていて、みたいに思われているが、そんなことは全然ない。


ちょっと具体的な数字を出して計算をしていこう。現在のマシン(Pentium4の3GHz程度)で1秒間に読める局面数というのは、ギチギチに最適化して100万局面ほどである。ただし、それは詰め将棋のような候補手をリストアップする時間が限りなく0に近く、かつ、形勢判断をする時間自体が不要と言った場合の話で、もしそれらに時間を費やすならばその1/10とか1/100程度しか読めない。さらに言えば、もっともっと形勢判断に力を入れれば1/1000とか1/10000程度しか読めない。(つまり秒間1000局面とか100局面しか読めない。) さすがにそれではかえって弱くなるので、形勢判断にはそこまで力を入れずに、秒間1万〜10万局面程度が読めるぐらいにチューンするのがいまのコンピュータ将棋の実情なのだ。


しかし、現在のコンピュータにはメモリがせいぜい1GB程度しか載っていない。1GB程度では保存できる局面の数としては少なすぎる。1GB=1024*1024*1024byte。1局面をハッシュ化して64bit hash(8byte)+局面評価値8byte=16byteで表現できるとして67,108,064局面しか保存できない。1秒間に100万局面を読むならば、このメモリはわずか67.1秒で使い切ってしまう。重要な局面についてだけデータを残していけばいいのかも知れないが、それでは局面を正確に記憶していけるという利点が薄らいでくるし、以前読んだ局面についてまた調べなおしたりしなければならない。欲を言うなら1局面16byteではなくて、メモ的なものも含めて32byteか64byteぐらい欲しい。そもそも64bit hashだと、ところどころ衝突してくるからもう少しビット数を増やしたい。そう考えると、せいぜい10秒ぶんぐらいの局面しか記憶できない。コンピュータは10秒前に考えたことすら覚えておけないんですよ!奥さん、知ってました?!


とまあ、CPUパワーのわりにメモリが少なすぎる。どうも、なんだか雲行きが怪しくなってきた。コンピュータは計算力と記憶力に優れているのではなかったのか?全然足りていないことはこの計算からも明らかだ。思うにCPU速度はせめてあと10倍、メモリに関してはせめてあと1000倍程度は欲しい。しかし、それにはあと10年〜15年ぐらいはかかりそうだ。(コンピュータがプロに勝てるようになるだろうと予測されている時期もちょうどそのへんだが、私は以上のことからも、その話には結構、信憑性があると思う。)


とまあ、このへんの事情が理解できている人ならば、「コンピュータは人間に比べて圧倒的に計算力と記憶力に優れているので」みたいなことは言わないんじゃないかと思う。「コンピュータはうっすらパァ(死語)なので」というぐらいが妥当な評価じゃないかなぁと。(つづく)