Winny作者をめぐって(5)

産経新聞の社説では、こう書かれている。


それだけに、ソフトが違法行為に悪用されたからといって、開発者ま
で罪に問うことには無理がある。刃物を作った人が、その刃物が使われた
殺人事件の責めを負うのと同じだからだ。海外でもソフト開発者が罪に問
われた判例は見当たらない。(中略)

匿名性が特性の一つでもあるインターネット社会では、参加者のモラル
に期待するだけで規律は成立しないが、刑事罰で取り締まることが万能と
もいえない。

これはこの手の議論にありがちな「刃物は違法か論法」すなわち、汎用性のある道具そのものは違法ではないという論理だ。winnyが違法なファイルを交換するために作られた違法ソフトであるかのように誤解を与えるような報道の仕方をするところが多いなか、産経新聞は比較的ニュートラルな立場からものごとを判断していると思う。


しかし、ひとつだけ個人的な感想を言わせてもらえるなら、winnyを刃物に例えるのは、アナロジーとしてややおかしいと思う。winnyを例えるならば5,000メートルぐらいの遠方から人を殺せるライフルなのだ。だもんで、非常に犯人が特定しにくいわけだ。winnyを改良してその匿名性を向上させるということは、この5,000メートルという飛距離を10,000メートル、はたまた100,000メートルと高性能にしていくことに他ならない。このライフルで殺人が行なわれることがあれば、このライフルの所持自体を違法にするか、本意でなかろうと、このライフルの製造者を殺人幇助の疑いで捕まえざるを得ないだろう。


匿名でファイルを交換できるソフトの設計理念を貫徹するために、匿名性を向上させれば向上させるほど、違法性が高まるとは皮肉な結果だ。もはや迂闊にソフトウェアを作ってはいけない時代に突入していると言えるのかも知れない。