ドワンゴの川上会長に聞くべきだった『経営はなぜクソゲーなのか?』


昨日、ドワンゴの川上会長と2時間ほど対談をさせていただく機会があった。
4Gamer.netの『ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!』という企画である。


対談自体はいろいろ裏話が出て、のちにWikipediaにそのまま転記されると思われるような内容も多数あった。


例えば、初期のニコニコ動画においては運営はアニメなどの動画投稿(明らかな著作権違反)に対してもほとんど取り締まりをやっていなかったわけであるが、これは、BM98に倣い、作者は仕組みを提供するが、曲の提供者がどんな曲をアップするのか(例えそれが著作権違反であろうと)には感知しない、というスタンスを参考にされたとのことだった。


そ、、そうなのか!誰かWikipediaに転記しといてくれ!


ニコニコ動画は、ワシ(やねうらお)が育てた」って今日から言って回るわー。
※ 飲み屋でおっさんが「イチローはワシが育てた」と言ってる程度の意味で。


まあ、そういう興味深い対談であるので、読者の皆様は、4Gamer.netのほうに記事が掲載されたら是非読んでいただきたい。


しかし肝心の私は、緊張していたこともあるが、全体的にうまくしゃべれていなかった。終わってから「私ってこんなにしゃべりが下手なのか」とつくづく思った。スタッフの皆さんは対談が終わったあと「面白かった」と言ってくださったので、そこまでひどい内容ではない(と信じたい)のだが、川上会長が「経営はクソゲーですから」とおっしゃったときに、私は「ですよねー」と軽く流してしまった。ここが、この連載の趣旨にそぐう、一番重要な部分であるというのに!


これを紙面上で見ると、私のことは聞き手として恐ろしく下手くそであるように見えると思う。私は事前に本企画の4Gamer.netの過去の連載記事を読んで、川上会長の思想というか、考え方については大筋で理解していた(つもり)ので、とっさに言うべき言葉が見当たらなかったのだ。


このことについていまさらこれ以上、弁解しても仕方がないので、この「経営はクソゲーか」「リアルはクソゲーか」などについて、川上会長の考えと私の考えを以下にざっと書くことによって4Gamer.netの記事の補遺としたい。


まず、川上会長が『会社経営はクソゲーすぎる』という根拠。これは、UEI(株式会社ユビキタスエンターテインメント)の代表を務めるshi3zさんとの次の対談のなかにある。


会社経営はクソゲー過ぎる!――ユビキタスエンターテインメントの清水 亮氏がゲストの「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」第9回
http://www.4gamer.net/games/000/G000000/20121226105/

川上氏:
 確かに会社経営ってゲーム性はかなり高いよね。だけど会社経営って,凄いクソゲーじゃん? ゲームバランスなんじゃらほいみたいな感じじゃないですか。

清水氏:
 あはは。確かに!

川上氏:
 なんでこんなクソみたいなバランスで,かつ縛りプレイをし続けなきゃいけないのっていうね(苦笑)。

清水氏:
 見てるだけでいい時と,自分で死ぬほどやんなきゃいけない時のバランスもかなり悪いですよねぇ。

川上氏:
 それにご褒美がもらえる間隔が長すぎて,もう待ってらんないみたいな感じもある。そもそも,ご褒美をもらえるかどうかも分からないし。

清水氏:
 まぁあと,ご褒美をもらえるような時はずっともらえ続けますからね。それはそれで,もはや麻痺してきて,これがご褒美なのか罰ゲームなのか分からなくなる。

川上氏:
 そうそう。


確かに、この会社経営をそのままゲームとしてシムシティみたいに、会社経営シミュレーションゲームとして発売したら、大ブーイング必定の「とんでもなく糞ゲー」であろう。また、この理屈で行くと、リアルも間違いなくクソゲーに分類される。自分が行なったアクションに対するリターン(プラスの意味でもマイナスの意味でも)が返ってくるタイムスパンが長すぎて、ゲームとして成立していないからだ。


ゲームであるからには、ある程度、自分のアクションに対してその行為がプラスであったのかマイナスであったのかが、早い段階でフィードバックされ、そのフィードバックをもとにプレイヤーはそれを学習しながら次のアクションを考えていくという循環がなければならない。「もうちょっと勉強を頑張って、いい大学行っとけば良かったかな」とか20年後に気づいてもそれはもはや手遅れである。1サイクルのフィードバックに20年もかかるようなゲームをゲームとは呼べないだろう。


リアルの世界がクソゲーだと言うのは、フィードバックが得られるまでの長さのほかにバランス崩壊というのがある。それはつまり、金持ちの家に産まれれば、何もしなくとも生きていける、シューティングゲームで言うなら最初から無敵モードのようなものだ。どうやったって死なない。これではゲームとして面白いはずがない。これもゲームとして成立していない例である。


そういう意味では、ゲームのようにきちんと短いタイムスパンでのフィードバックが得られ、それをもとにプレイヤーが学習するというサイクルを繰り返すことが出来るようなゲームのほうが楽しく、それと比較すると「経営はクソゲー」という理屈になる。


特に、川上会長自身重度のゲーマーである。なんでも初期のUltima Onlineをプレイしたときは、あまりの面白さに3日3晩やり続け、体調に異変を感じ、これ以上やると会社は倒産すると思い、そして生命の危機すら感じたので涙を飲んでアンインストールしたとのことらしい。


そういう人からすると、「経営が、そしてリアルがゲームになってないじゃん」というのは、お説ごもっともなのである。


私が川上会長と対談しているときに、川上会長が「経営はクソゲーですから」とおっしゃったときに、そんなことが頭に浮かび、私は「そうですよね〜」と答えてしまった。違う。ここはもっと食い下がらないといけなかった。何やってんだよ、俺。


経営やリアルがクソゲーだという根拠は、
1) アクションに対するフィードバックが得られるまでのサイクルが長すぎること
2) ゲームバランスの崩壊
この二つである。


1)は、会社経営においては、必ずしも長いとは限らない。例えばニコ動であれば何かしら改善すれば即座に効果(売上の増加)として現れることがあり、1日とか1週単位でフィードバックが得られるような事項も当然あるはずだ。リアルにおいても、勉強をすれば試験の成績は伸びるだろうし、何かの技能の訓練をすれば、1ヶ月ぐらいの単位で習熟が目に見てわかるはずだ。そういう意味では、世の中、フィードバックが得られるまでのサイクルはそこまで長いものばかりではないと私は思う。


2)は、なんとも悩ましい問題なのだが、私の知人にとある大企業(連結決算で年商5,000億程度)の御曹司がいるのだけど、生まれたときから金持ちなので、別に勉強なんかしなくとも生きていけるわけである。ところが、そういう人たちは実際に自堕落な生活を送るかというとそうはならないのが普通である。彼の場合、東大に進学し東大の大学院を出てゲーム会社に就職した。何故、ゲーム会社なのか、まわりの誰もが不思議に思った。当時、ゲーム会社はそれほど給料も良くなかったので、東大の院を出てゲーム会社に就職する人なんかほとんどいなかったからだ。彼いわく、「ゲームが好きなのでゲームを作りたかった」とのことらしいが。


金持ちの家庭だと子供のころから専属の家庭教師がついたりすることもあって、思想的、そして文化的にも高い水準の知性を持つので、そういう人は自堕落な生活を送ったりしないというのもあるのかも知れないが、本記事の趣旨にそぐうような文脈でこの現象を捉え直すと、もっと別の見方も出来ると思う。


それはリアルの世界をゲームとして捉えたときに、このゲームを面白いものにしようという心の働きである。


リアルの世界がヌルゲー(簡単すぎるゲーム)であるなら、縛りを入れて適度な難度に調整すればいいのである。シューティングで難度調整のためにあえてパワーアップを取らないだとか、弾を撃たないだとかそういう縛りプレイがあるが、それと同じである。簡単なゲームが与えられたときにそれを適切な難度にすることは比較的容易であり、簡単すぎるゲームをどうにかして適切な難度にしようという心の働きみたいなものがある。それは、ゲーマー視点で言うと簡単すぎるゲームからだとそこから得られる経験値が低すぎるため、得られる経験値を最大化したいという欲求である。


このように得られる経験値や情報量(エントロピー的な意味で)を最大化したいというのはゲーマーとしての普通の心理であるが、こういう視点でリアルの世界を捉えたときに、ゲーマーでなくともこういう心理はどこかにあるのだと気付かされる。


例えば、自分がこの世に産まれてきたことに何らかの意味を持たせようとする心の働きがある。それはプライドであったり、自尊心を支えているものだが、こういう心の働きがあるので、自ら自分の生き方に縛りを入れて(レギュレーションをして)、無意識のうちに人生の難度を適切なものに調整しようとしてしまう。


逆に言うと、こういう心理が内在している以上、“リアルの世界”はその人の心の在りかた次第では大変意義深い、素晴らしいものになるのではないかというのが私の持論である。


また「経営はクソゲーである」というのは、経営をゲームとして捉えたときのバランス崩壊という意味ではその通りなのだが、しかし、スペランカーのようなバランス崩壊のクソゲーでも、当時、ゲームとしては楽しめたはずで、つまり、そのバランス崩壊している部分も許容し、受け入れた上でそのなかにあるゲーム性を享受するということが我々に出来るはずなのである。


ドワンゴは早く売ってしまいたかったんです。でも当時ホリエモンに打診したら高すぎるから嫌だと言われて、どこも買い取ってくれる会社がなかったんですよね〜」とおっしゃっていた川上会長におかれましては、どうか最後まで捨てゲーすることなく、これからもドワンゴを成長させて行ってください!


■ 関連情報


4Gamer.netの記事


ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!
http://www.4gamer.net/words/005/W00506/


// 4Gamer.netに対談記事が掲載されたのでリンクを追加しました。(2013/12/25)
電王戦,なんで勝てたんですか?――「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」第15回は,「BM98」を開発した伝説的なプログラマーやねうらお氏がゲスト
http://www.4gamer.net/games/001/G000183/20131222001/


・書籍

SWITCH Vol.31 No.12 ◆ スタジオジブリという物語

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