ビリオン・キラー


清涼院 流水さんの『カーニバル』という小説(asin:406273642X)に「ビリオン・キラー」(十億人を殺す者)というのが出てくる。「ビリオン・キラー」の開催する「全人類殺害計画犯罪オリンピック」という、いかにも中二病的な設定に失笑を禁じ得ないが、大量殺人って本当に非現実的なのだろうか。


よく推理モノの小説で、余命数ヶ月だと医者から宣告された犯人が恨みのある相手を殺害するようなシーンがあるが、これ、現代だと、IT系バブルで株式上場して数百億を得た経営者が、余命数ヶ月だと医者から宣告されて、死ぬ前に2chで自分のことを誹謗中傷していた奴らを皆殺しにするような事件が起こっても何ら不思議ではないのではなかろうか。


タレントの麻木久仁子さんが2chでの書き込みで名誉を傷つけられたとして、プロバイダーの浜松ケーブルテレビに発信者の名前と住所、メールアドレスの開示を求めた訴訟の判決で、静岡地裁浜松支部は請求通り開示を命じたのは記憶に新しい。しかも、当該の2chでの書き込みはテンプレからのコピペ改変である。この一件で、コピペであろうが改変であろうが名誉毀損が成立するし、裁判所の判決に従いプロバイダーは個人情報を開示するということが周知のものとなった。


IT系で名を成したような企業の経営者を誹謗中傷する書き込みを2chでよく見かける。「なんとかさんの脱税疑惑 まとめ」だとか、そういう類のものだ。実際は悪意のある数人(ときとして1名)が必死に書いているだけで、たいていろくな根拠も書かれておらず、おそらく事実ですらない。しかし他の者は、面白半分で事実確認もせずに他の板にスレを立てたり、他のスレに「なんとかさんの脱税疑惑まとめ」をコピペして貼り付けたりするわけだ。


「何と命知らずなことか」と私は思う。300万円ぐらいのために強盗殺人を犯す人が後を絶たないのだから、誰かに殺人を依頼するとしても百億円もあれば3,000人ぐらいは軽く殺せるだろう。コピペであろうが誹謗中傷に対してプロバイダーが個人情報を開示することがわかっているわけだから、死期が迫った金持ちなら、自分を2chで誹謗中傷した人間を全員殺してから死のうと思っても何ら不思議ではないわけだ。そこまでDQNな金持ちが歴史上いなかったというだけで、いつ現れてもおかしくはない。2chで誰かを誹謗中傷したり、その手の書き込みをコピペするのは本当にやめたほうがいい。


ヨハネによる福音書には、キリストが「あなたがたのうちで罪のない者が、最初に彼女に石を投げなさい。」と言ったと書かれているが(同書、第8章。初期の写本にこの部分は無く、後世の付加らしい)、いまの時代は次のようになるのではなかろうか。


死期が迫った金持ち「あなたがたのうちで文字通り生殺与奪の権利を私に握られてもいいと思う者だけが、私への誹謗中傷をコピペしなさい。」


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