NHKはもっとヤラせをすべきではないか


いまどきは世間でもコンプライアンスに五月蝿くて、テレビ放送でヤラせなんかしようものなら強い批判を浴びる。しかし、許される範囲のヤラせというのも現実的には存在する。


例えば、ある会社に訪問するとき、「ここが、XXXを作っているYYY会社ですねー。お邪魔しまーす」みたいな会社の玄関から入ってくるシーンがよくテレビで流れるわけであるが、あれもヤラせと言えばヤラせである。実際は、いったんその会社の担当者と打ち合わせをしたあと、「最後に、玄関から入ってくるところ撮影させてもらっていいっすか?」みたいな話になる。「いいですよ」と言うと、改めて玄関から撮影するわけである。


玄関あけたらいきなりカメラを回しているだとか、そんなことはありえない。私は過去、数十回メディアの取材を受けたが、いきなりカメラを回しているテレビ局や雑誌記者なんて一度もいなかった。


そりゃそうだろう。玄関あけていきなりテレビカメラが回ってたら、「ちょ、ちょっと!何してるんですか!やめてください!!」みたいな感じで猛烈に怒り出す人がいて、取材拒否にもなりかねない。そうでなくとも、「玄関からの撮影はNGです」と言われたら、せっかく撮影したビデオテープが無駄になってしまう。だから、そんな取材の仕方をする人はいないわけである。


だから、「ここが、XXXを作っているYYY会社ですねー。お邪魔しまーす」みたいなシーンは100%ヤラせなのである。


撮影のため、小道具を持たされることもある。例えば私はプログラマーとして紹介される場合、決まって、PCに向かってキーボードを叩いてプログラムしているところを撮影させてください、みたいな話になる。そのプログラムを作ったのが私でなくとも、である。まして撮影中にプログラムが書けるはずもなく、これまた適当に何か文字をタイプしているだけとなる。しかし「普段、こういう風に開発している」ことには違いないので、まあ間違ってはいないのだが、これもヤラせと言えばヤラせである。


また、こんなケースもある。ずいぶん前のことになるが、どうもそのときのテレビ局のディレクターは、私が簡単なプログラムであくどく儲けているところを撮りたかったようなのだ。実際はあくどく儲けてなんかなかったし、私自身はさほど儲かってもなかったのだが、その番組で使う流れ上、そういう風に私を撮影したかったようなのだ。当時、コタツに入って仕事してて、コタツの上に食べかけのお菓子やらミカンやらが散在していた。「このコタツの上を片付けてもらえませんか」みたいな話になって、コタツの上やら部屋のなかやらいろいろ片付けた。私は普段はそんな状態で開発をしていたわけではないので、普段の状態ですらない。全くのヤラせであった。だからと言って許されない範囲のヤラせだとは誰も思わないだろう。


ついでに言うと、私の「これではほとんど儲かっていませんよ」みたいな発言は編集ですべてカットされていた。どちらかと言うとそっちのほうが問題だと思うのだが、本論とはズレるので話を先に進める。


ともかく、普段の仕事風景をありのままに撮りたいのであれば本来は盗撮するべきである。そうしてこそ初めて普段の仕事風景が撮れるわけである。しかし、現実的にはそうは出来ないので、取材でテレビカメラが回っているときに、取材される側の人間は普段の仕事風景っぽく演技しなければならない。もうこの時点でヤラせと言えばヤラせだし、こういうのをヤラせだと言い出すとキリがないのである。取材という性質上、どうしても作った映像になってしまうのは仕方ないのである。


こんなことは、サンタクロースを信じている小学生でもない限り、考えればわかるはずであるが…。


さて、私は先日、NHKの『サキどり』という日曜の朝の番組の取材を受けた。
http://www.nhk.or.jp/sakidori/backnumber/140622.html


その放送内容は電王戦関係の話題に始まり、人工知能が人間の頭脳に迫ろうとしているという内容の放送があった。朝の情報番組なので比較的軽めの内容ではあるのだが、それでも激指の開発者の鶴岡先生の研究室でコンピューター将棋で使われている機械学習を応用して英文の誤りの自動検出プログラムを開発しているだとか、Googleは自動運転カーを作っているだとか、東大合格を目指す東ロボ君のプロジェクトリーダーへのインタビューだとか、取材は多岐に渡り、きめ細かな取材をされていた。さすがNHKだと思った。


この取材のなかで、NHKの番組のディレクターから「コンピューター将棋の開発をしている人はこんな(立派な?)仕事もしているだとか、コンピューター将棋のプログラムはこんなプログラムに応用できる、応用しているみたいなものは何かありませんか?」と尋ねられたので、ああそういや、私が六本木ヒルズにあるセキュリティ会社のCTOをしていることを「やねうらおは見栄を張って嘘言ってんだろw」ぐらいに思ってやがる輩がいまだにいるので、「おっしゃ、ワイの勇姿を全国放送で見せたるわい!おんどれら、メン玉ひんむいてよう見とけ!」とその会社に行ったときに取材してもらおうとNHKのそのディレクターに提案したのだが、取材日に折り合いがつかなかった。


仕方ないので、私が技術顧問をしているゲーム会社でゲーム製作のための授業をしているところでも取材してもらおうと思った。普段、何かのついででないと私はその会社には行かないので取材日を指定するなら交通費ぐらいNHK側で出して欲しいと思ったわけだ。そのことをそのディレクターに相談したところ「最近、ヤラせ報道とかに対して厳しくて、すみませんが、お金は出せないことになっているんです」とのことだった。


あくまで日常的にやっていることを取材して撮影するわけだから、そのための費用をNHKが出すのはご法度ということなのか。いやー、そうは言っても、日常的にやってはいるけど、取材日を指定されるとわざわざその日に行かざるを得ないですよ?宿泊費は自腹で出しますから、交通費ぐらいでませんの?出ない?そうですか…。


みたいなやりとりのあと、そうだ、いま取り組んでいる自動作曲プログラムのほうを取材してもらおうと思った。私は作曲家の芳川よしのさん( http://www.yosshibox.com/ )と定期的に会って自動作曲ソフトのためのミーティングをしているので、コンピューター将棋ソフトの探索技術が自動作曲ソフトに応用できるという趣旨で取材をしてもらうことになった。芳川さんとは、私が東京に出張に行ったときはじかに会って話をしているのだが、そうでないときはSkypeビデオチャットをしている。


番組ディレクターからは「Skypeではなく、実際に芳川さんに来ていただくことは出来ませんか?」と言われたのだが、芳川さんが東京から私の仕事場(大阪)に来る用事もなかったので「交通費でませんか?」と尋ねたが、「それはやはり出せない」とのことだった。


交通費を出したところで、これがヤラせに該当しないことは明らかだと思うのだが、ヤラせにつながるためか、こういう費用は一切出せないことになっているらしい。だったら取材費などの名目で出して欲しいところであるが、NHKは取材費は基本的に出さない。


このように書くと、「やねうらおは目立ちたいから取材費なんかなくても喜んでテレビに出るんだろ(藁)」とか言う声が聴こえてこなくもないが(そういう気持ちが無いとも言い切れないが)、何故私が取材費も出ないような取材に応じているかと言うと、電王トーナメントにエントリーしたときにドワンゴ側にサインして提出した書類には「メディアの取材には応じること」ということが明記されているからである。いや、明記されてなくても基本、取材には応じるけども、今回のように取材に応じてその交通費が自腹というのは非常に理不尽だと思うのだが…。(注:電王戦関係でドワンゴに行く場合の交通費に関してはドワンゴからもらえます。念のため。)


そうこうしているうちに「せっかくテレビに映るなら、PCのモニター越しではなく直接映りたい!」という芳川さんの希望があったので、私が芳川さんの交通費を出してあげて大阪まで来てもらうことになったわけだ。


番組のディレクターからの事前の話では、私と芳川さんがピアノの前で話している映像は番組のエンディングで使われるとのことだった。私と芳川さんとの事前打ち合わせでは、私がピアノを弾く係となるはずであった。芳川さんは作曲家ではあるが、DTMが主体でピアノはブルグミュラー程度の腕前らしく、「それなら私(やねうらお)のほうが上手いよね…」という理由で私が弾く係(ピアノの前に座る)となるはずであった。ところが、その番組ディレクターの希望で私が芳川さんのノートPC(DTM用)を持って椅子に座り、芳川さんがピアノを弾いている映像を撮影することになった。


この『サキどり』の放送されたエンディング部分を見ると、芳川さんには紹介のテロップが入っていないのでどこの誰かもわからない。私がノートPCを持っているので、そのノートPC上で動く自動作曲ソフトで作った曲をあたかも演奏者の人が演奏しているかのような映像になってしまっている。この放送を観てそのように誤解して受け取らない人が一人でも居るというなら教えて欲しいぐらいである。ノートPCのほうは、DAW(曲作りのためのソフト)が立ち上がっているのだが、私は使ったこともないソフトであり、使い方もわからないソフトである。


まあしかし、「コンピューター将棋の技術が自動作曲に使える」というのは事実であり、私が自動作曲ソフトを製作中であることも事実である。それはきちんと視聴者に伝わっているわけで、イメージ映像としてはこれでいいのではないかと思う。この程度のことをヤラせだの捏造だの言うと映像編集という仕事自体が成り立たなくなるのである。


どうかNHKは、世間からのヤラせ批判などに負けず、取材の時には交通費ぐらい出せる体質になっていただきたく、よろしくお願い申し上げます。


あ、あと。ちょうどその番組の放送を見てらしたシンガーソングライターの樋口了一さんからはこんなツイートが。

https://twitter.com/ryoichihiguchi/status/480505494180614144