理想の8方向レバーについて


アーケードゲームの歴史において8方向レバーがいつどのようにして誕生したのか私は知らない。もしかしたら、4方向レバーが発明されたとき、それはすでに8方向レバーとして使えたのではないかと思う。それをわざわざ4方向に補整する金具(ガイド)を入れて、4方向レバーとして使っていたのではないだろうか。


思えば、当時、8方向が入力できることがゲーム進行上、邪魔になることは多々あった。


例えば「ドラゴンバスター」(ナムコ 1985年)は、4方向レバー用のゲームとして設計されていた。ナムコ直営店では必ず4方向レバーでプレーできたのだが、それ以外のゲーセンではよく8方向レバーのドラゴンバスターを見かけた。


ドラゴンバスターでは斜めジャンプをするために、移動(右か左)からいったんレバーをニュートラルに戻したあとレバーを上に入れなければならない。「ニュートラルに戻して上」というのは、4方向レバーであれば、移動モーション(左とか右とか)から心持ちセンター付近を通過しながら上に入れる程度で良い。ところが8方向レバーだとこんないい加減な入力の仕方だとニュートラルに戻す過程で斜め入力を経由してしまい斜めジャンプできない。


つまりドラゴンバスターは、8方向レバーだと致命的にまずいのだ。
大は小を兼ねるかも知れないが、残念ながら8方向レバーは4方向レバーを兼ねなかった。



ところで当時の8方向レバーの性能はどうだっただろう?


8方向レバーでどの方向も平等に入力できるようにしようと思えば、360度/8 = 45度ずつ割り振られなければならないことは明らかで、図で示すとこうだ。


[図1]


図が適当でわかりにくいかも知れないが、360度を8等分してある。(つもり) レバーの位置が、図の赤い部分にあると上・下・左・右だと判定される。レバーの位置が青い扇形の領域にあると斜め右上・左上・左下・右下だと判定される。レバーの位置が、中央の白い部分にあるとニュートラルだと判定される。


つまりこれは、レバーの位置から入力方向を決定するための図だと思って欲しい。


しかし、レバーの稼働範囲は上図の外側の円までではなく、普通は矩形である。また、レバーの裏に設置する金具(ガイド)を8角形にすれば、この外側の円に近い可動範囲になるが、8角形のガイドが発明されたのは比較的最近のことであって、当時、そのようなガイドはなかったと思う。しかも斜めの判定領域は正確に45度もなく、もっと狭いのが普通だった。


個人的な体感だが、特に当時のナムコレバーは斜めの判定領域が狭く、斜めに入れにくかったと思う。


それなのに、ナムコは「メルヘンメイズ」(1988年)という斜め方向に進んでいかなければならないゲームを作ってしまう。ぴょんぴょんとジャンプで小さな動く床を乗り移っていかないといけないのに、ナムコレバーだとこれが大変難しい。なかなかナムコファン泣かせなゲームだったように思う。


当時、メーカーごとにレバーにはいろんな特徴があって、例えば比較的普及していたタイトーレバーはすぐにふにゃふにゃになり(ニュートラルに戻りにくくなり)、俗にふにゃチ○レバーなどと揶揄された。またタイトーレバーは斜めを入れる過程でどうしても上か右に一瞬入ってしまうことも多く、ゲームによってはこれが致命的だったりした。


それはともかく、当時のレバーで使われているスイッチの特性上、8方向それぞれが平等な入力判定領域を持っているような理想的なレバーは存在しなかったのではないかと思う。単に2方向レバーに使っていたスイッチをX軸方向とY軸方向に取り付けただけだったからだ。[要出典]


判定領域を図示すると次のようになる。


[図2]


いや、上の図だと、斜め入力にレバーを移動させるときに必ず上・下・左・右のいずれかを経てしまうのでより正確には以下の図のようになる…と思うのだが、本当にそうなっているのかどうかについて私は確信が持てない。


[図3]


と言うのも、2方向レバー用のスイッチを単にX軸方向とY軸方向に取り付けただけならば[図2]のようになっているはずで、斜め入力時には、一瞬、上・下・左・右に入ることになる。それを積分回路のようなもので無視しているのだと思うのだが、実際のところどうなっているのかは私にはよくわからない。



ともかく、現在ならば、アナログスティックなどではレバーの位置を正確に取得できるので、図1のような判定領域をソフト的に再現することは可能だ。


ただし、このときに、プレステのアナログコントローラーのようにガイド(金具)がないと、「このあたりが斜め入力だよね」という感覚がレバーからはプレイヤーにフィードバックされないので、プレイヤーは画面上のキャラクターが斜めに動いたのかそうでないのかを見て自分がレバーが正しく入力されているのかを理解するほかないし、ゲームごとに斜めの判定領域が違ったりして、実にいやらしい。


以上、理想の8方向レバーって意外と難しいね、というお話でした。