インターネットはからっぽの洞窟か?


本棚を整理していたらインターネットはからっぽの洞窟と言う本が出てきた。何年も昔にブックオフで100円で買ったものだ。アマゾンのマーケットプレイスでは1円で売られている。(送料が別途かかるが)


この著者は、カッコウはコンピュータに卵を産む〈上〉の著者だと言えばわかるだろうか。


クリフォード・ストールの名前は、Wikipediaのハニーポットの説明にも出てくる。


インターネットはいかに空虚か、いかに役に立たないか、いかにくだらないかを頑固で偏屈な爺さんのように延々と書いてある。インターネットがこれだけ普及した現代からしてみれば、ある意味噴飯ものだ。数年前に買って読んだのだが、そのとき、あまりの内容のひどさに本当にお茶漬けを吹いた。


しかし、この本を捨てようと思っていま読み返してみると一つ一つの話は妙にリアリティがあって、読み物としては面白いものもある。
少し長いが、私のお気に入りの話を引用しよう。



子供のころ、僕はニューヨーク州バッファロー市に住んでいた。近所にセントラルパークプラザというモールがあって、僕はそこへよく行ったものだった。一九五〇年代のあちこちの町によくあった、安売りで客を釣り、日銭をかせぐような店がズラーッと並んでいる感じのモールで、安物雑貨店のマーフィーズとクレスジーズが女性の下着なんかの値引き競争を年がら年中やっていた。


いじわるな店員、それに輪をかけたようにいじわるな店長とのやりとり。ちゃちなプラスチック製の商品。車輪がガタピシャのショッピングカー。冬の五ヶ月間はアイススケート場になってしまう、舗装がそこらじゅうはげあがった駐車場。そういった感じの町なんだ、バッファローって。「バッファロー、幻影のない町」という文字が入ったTシャツが人気になるには、それなりの理由があるというわけだ。


だけど、あの夏の午後、デューウィ広場であったことは、いまでも幻影のように僕の脳裏に焼き付いている。その広場にはハンドボール用に作られた高いコンクリートの壁が二面あったけど、ハンドボールを知っている人がいなかったから、いつも誰かがテニスの壁打ち練習をしていた。そのデューウィ広場のブランコあたりに僕らがたむろしているのを、あのレクリエーションカウンセラーが見つけたんだ。おそらくベトナム徴兵間近の十八歳の青年だったと思うけど、彼は僕らを追い払おうとするかわりに呼び集めて言った。みんなで探し物競争をしようって。


十二歳ぐらいになって、子供じみた遊びには関心がなくなりかけていた僕は、弟のダンに素早く目くばせして、二人でそーっと逃げ去ろうとしたのだけれど、そいつはそんじょそこらの探し物競争ではなかったのだ。そのレクリエーションカウンセラーは、アイスキャンディーの棒、石炭、四つ葉のクローバー、丸い小石などといったありふれたものを探してこいとは言わなかった。


一時間以内に探してこなくちゃいけないって彼が言ったのは、バケツ一杯のスモッグ、瓶入りの太陽光線、明日の新聞、ナイアガラの滝のひとかけら、真面目な政治家といった、まず見つけられっこないものばかり九つと、黄色のヨーヨーだった。誰でも一点は稼げるようにという彼の配慮が十番目のヨーヨーってわけだ。


で、僕らは探しものを求めて、バッファロー市のノースサイドをうろつき回った。一時間がたったころに、弟のダンが錆びたバケツにショッピングバッグをかぶせたものをぶらさげて戻ってきた。もみくちゃになった『バッファロー・イブニング・ニュース』紙を持って戻ってきた少年もいた。僕が持ち帰ったのは、瓶入りの太陽光線だった。


砂場に集合した僕らの一人一人に、あのレクリエーションカウンセラーが何を見つけてきたかとたずねる。ダンは錆びだらけのバケツを前に置いて、遠くの煤煙工場から運んできたんだと言いながら、たしかにバケツ一杯のスモッグだってことを証明するために、上にかぶせたショッピングバッグをとった。


現われたのは、ただの空っぽのバケツ―――だったんだけど、ダンはすかさず言った。ここにあるのはスモッグ入りのバケツでえーす。この町はどこもかしこもスモッグだらけだからでえーす。


次にたずねられた僕は、ほじくりあてたジェニシー・ビールの小瓶に親指を突っ込み、空に向かってかざしながら言った。このビールの瓶には太陽光線が詰まってまあーす。明日の朝に栓を抜けば、朝日があふれ出しまあーす


明日の新聞は女の子が見つけてきていたけど、発行日の印刷されてるあたりが破れていた。その部分を指差して彼女は言った。タイムマシンで明後日に移動すると、新聞はみんなこうなるのでえーす。明日起きることがすべて昨日起こったって書かれているところがとっても変でえーす。


彼女に続いて男の子が持ち帰った水鉄砲を見せながら言った。ここにはナイアガラの滝となって流れ落ちるエリー湖の水が詰まってまあーす。これには僕も彼の想像力に感心したが、次の真面目な政治家には本当にびっくり仰天してしまった。なんせ、当時のバッファロー市では、市長が土地取引き疑惑で告発されたばかりだったのだから。女の子が真面目な政治家を僕らの前に出現させるには相当な想像力が必要だったと思う。たとえそれがパントマイムであっても。


まあ、こんなぐあいに、見つけられっこないと思えた九つはみんな見つかった。そして簡単に見つかるはずの黄色いヨーヨーは見つからなかった。




なんとも印象深いエピソードだと思う。


文章はこのあと少し続いたあと「黄色いヨーヨーがインターネットで売られているとは思えない」とインターネット批判に繋がるのだが、そんなところは気にせず、単なる物語として読めば、「三丁目の夕日」にも似たノスタルジアに浸れるのではないかと思う。この本の購入はまったくお勧めはしないが。


インターネットはからっぽの洞窟
クリフォード ストール
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