ぼくらの無銭飲食おじさん
私が小学生のころ、通学路に浮浪者のおじさんが居た。
おじさんは、無銭飲食おじさんと呼ばれており、ぼくらが給食で食べ残したコッペパンなどを差し出すと、毎回、面白い話をしてくれるのだった。
「お前たちに無銭飲食の仕方を教えてやる。まず、飲食店に入るんだ。チェーン店じゃないほうがいい。チェーン店は、無銭飲食のマニュアルがしっかりしていて、問答無用で警察に突き出されるからな。個人食堂が一番いい。」
「また、昼食時の店が混雑している時間帯を狙え。無銭飲食だからと言ってがっつくんじゃない。食うのは2,000円分までにしとけ。そうして食い終わったら、土下座して『お金は持っていません。皿洗いでも何でもします。』って言うんだ。誠心誠意な。そうしたら、どうなるか。」
「お前が店のオーナーだったらどうする?無銭飲食するような、どこの馬の骨ともわからない奴を店で使いたくないだろ?俺が皿洗いなんかしたらバイキンだらけだからきっと客は全員食中毒で病院送りだぜ?」
「かと言って警察を呼んだところで、根掘り葉掘り聞かれてしかもお金は返ってこない。店のオーナーにしてみれば時間が勿体無いだけだ。2,000円ぐらいで俺みたいな奴に逆恨みされるのも嫌だろ?結局、『出ていけ!もう二度とくんな』となるんだよ。十中八九、そうなるんだよ。」
「だけどそうならなかったらそうならなかったでいいんだよ。無銭飲食は詐欺罪だが量刑は知れてる。ムショ(刑務所)に入っても一年ぐらいで仮出所出来るよ。まあ、ムショは別に出れなくてもいいんだよ。ムショに居れば食うには困らねぇからな。」
そんな無銭飲食おじさんは、ある日を境にぼくらの前からこつ然と姿を消した。
あのおじさんは、いま塀の中で暮らしているんだろうか…。