24時間でリセットされる記憶


2chには自分のIPに応じてIDが表示される板がある。
IPが変わらなければ24時をまたぐまでは同一のIDが表示され続ける。


逆に言えば24時をまたいだ瞬間からまた別人になりすますことだって出来るわけだ。
24時をまたいだ瞬間から共産党員のフリをしていた者が自民党員のフリをすることだってできる。


24時をまたいだ瞬間から、姉萌えのフリをしていた自分の書き込みに対して「年上とかありえねぇからwww やっぱ血の繋がらない妹だろjk」とか別人のフリをしてレスを返すことも出来る。


しかし24時をまたぐまでは同一人物として振舞わなければならない。アイデンティティを保たなければならない。前後で矛盾したことを言ってはならない。


普通、人間が社会的に活動する場合、一貫して矛盾していないことが求められる。しかし人間なんてものは日々変わっていく生き物だ。生物学的に見ても10年もすれば体細胞のほとんどは入れ替わっていて、10年前の自分を構成していた物質なんてほとんど残ってはない[要出典]のに、社会的には10年前の自分と一貫していなければ、信用にかかわったり、他者の期待を裏切ったりすることになる。


私が高校のときにミシェル・フーコーの「知の考古学」を読んだとき、内容はいまひとつ腑に落ちなかったけど、アイデンティティを一貫して保つというのは、そのように、いささか窮屈で、ゲーマー的に言えば一種の縛りプレイ(ゲームをする上で制約をわざと課して、ゲーム難度を高めて遊ぶこと)なんだなぁと思った覚えがある。


まあ、何か論戦をしようと思う場合、例えそれが24時間であっても矛盾なく発言し続けるのは結構大変だ。24時間変人のフリをするのも大変だろうし、24時間精神疾患のフリをするのも大変だ。アイデンティティを保つというのは、例えそれが24時間であっても大変な努力と精神力を要する。


まして、10年や20年のスパンで見ると過去の自分の発言は黒歴史そのものだ。10年前の自分の書き込みを引用してきて「お前、こんなこと言ってたじゃん」とか突っ込まれると私としても大変困る。「大変困ることになるなぁ」だとか「10年後、これは確実に黒歴史になる」と思いながらも、私は今日もエロ漫画の話でもして、しこしこと黒歴史の生産に励む次第だ。



少女マテリアル (WANI MAGAZINE COMICS SPECIAL)


ええと、前回は森山塔(=山本直樹)と町田ひらくの話だった。
http://d.hatena.ne.jp/yaneurao/20100505


この両氏の作品はいささか古典すぎる。比較的近年のもので印象に残っている作者とその単行本を挙げるなら、鳴子ハナハル少女マテリアルは外せないと思う。


まず、この人の画力には脱帽する。線に無駄が無いし、登場人物が生き生きしている。
デッサン力、画力など圧倒的で、キャラも可愛いし、エロ漫画にはもったいないレベル。


この単行本のなかで私のお気に入りの作品は、「明日の私にヨロシク」だ。


これは、一日が終わると記憶がリセットされる女の子の話だ。
今日の記事の文脈に即して言うなら彼女は24時間だけは自己のアイデンティティを保つことが出来るわけだ。


この女の子は前日、自分が処女を喪失していたことに気づく。だけどその相手が誰だかわからない。そのことを仲のいいクラスメイトに相談するのだが、成り行き上、その日にそのクラスメイトとセックスをする。


この女の子はそのクラスメイトにセックスが終わったあと「初めてじゃなくてゴメンね」と謝るのだが、でも実は…。



こういうのって新鮮だなぁと思った。続きが気になる人は単行本で! → 少女マテリアル