ニコニコ動画を見ていると心が折れる


【第5回MMD杯本選】 I'm ALIVE
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【第4回MMD杯本選】春香さんにjubeat(天国と地獄)をやってもらった
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MMDプリキュアのおねえちゃんに憧れて
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【第4回MMD杯本選】東方でマイケル〜Smooth Criminal〜
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【PV】谷中初音町よりハロー【capsule+初音ミクMMD
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知っている人は知っているかも知れないけど、私の会社って10年ぐらい前は映像関係の仕事もしていた。例えば、ゲーム会社からゲームの素材をもらって、そのゲームのPVを作る仕事だ。


でもゲーム発売のずいぶん前にPVを作らないといけないから、もらえる素材は静止画30枚程度。それもネタバレにつながるような重要なシーンは使えない。キャラの立ち絵もまだ全部完成してなくて各キャラ1パターンだけ。音源もvocal無しのものが動画用に一曲しかもらえない。しかも予算は限られている。雀の涙だ。1,2日で終わらせないと赤字だ。それでいて動画は3分ぐらいの尺にしてくれとか言われる。「この曲とたったこれだけの素材とこれだけの予算で3分の動画作るの無理すぎるだろ。」という状況だった。


仕方ないので擬似3Dっぽく静止画を変形させたり、パーティクルっぽいのを飛ばして誤魔化したり、キャラクターを何度か使いまわしたりだ。私が動画の絵コンテ切って、あとは仕事を手伝ってくれていた友人のI君に任せるわけだが、まあ出来上がりは散々たるもので、納品しても納品先の会社の社長がかなりのDQNで『(その動画を見て)メッセサンオーの担当者が「華やかさが足りない」と言ってましたので改良してください』とか言ってきやがるわけですよ。


「この素材とこの費用で素晴らしい動画を作ってくれるところがあるならどうぞそこに頼んでください」と言いたい気持ちをぐっと抑えながら、DQN社長の藁人形に五寸釘を打つ毎日だった。


まあ、それはそれとして、もう何度も言うけど、本当、ニコニコ動画にアップされているMMD関係の作品ってクオリティが高いものが多い。


例えば、左の動画「【第5回MMD杯本選】 I'm ALIVE」はキャラが生き生きしている。「春香さんにjubeat(天国と地獄)をやってもらった」は、キャラがたくさん出てくるしその構成が面白い。「東方でマイケル〜Smooth Criminal」はモーションが素晴らしい。(←これは元となったマイケル・ジャクソンの動画での動きが素晴らしいのだが) 「プリキュアのおねえちゃんに憧れて」は、Lat式のミクが可愛すぎるし、演出面でも面白い。「谷中初音町よりハロー」は素材がおしゃれだ。文字素材の作り方、実写との合成の技術などセンスが光る。(ちなみにこの動画は部分ループ設定になっているので再生スライダを強制的に最後のほうに持っていくと、このループから抜け出せる。)


3Dモデル形状を作るのが得意な人がモデルを作りIKボーンの設定をする。そしてアニメっぽい絵を描くのが得意な人がそのテクスチャーを作り、モーションを作るのが得意な人がモーションを作る。あるいは、プロのダンサーのモーションをトレースする。音源はもちろんvocal入り。当たり前だが、プロの楽曲なわけで、プロの作曲家が作って、プロの作詞家が歌詞を付けて、売れっ子のvocalistが歌っている。そして、全体の構成も、全体の構成を考えるのに長けている人が考えるわけだ。AE(After Effects)のスクリプトスクリプトを書くのが得意な人が書く。GPUのShaderのプログラムを書くのが得意な人はShaderのプログラムを書いてエフェクトを入れる。すべてのパートにおいてプロの仕事かそれ以上だと言ってもいい。


それぞれの分業がきちんとなされている。納期があるわけでは無いから納得いくまで時間を費やすことだって出来る。自分の思い入れのある楽曲を使っているんだから、そこに費やす熱情だってひとしおだ。


実写を混ぜようと思えば、いまやたった5,6万円の一眼レフ(→ Canon デジタル一眼レフカメラ EOS Kiss X4 EF-S 18-55 IS レンズキット KISSX4-1855ISLK )でもかなりのクオリティの動画が撮れる。Kiss X4は、動画の撮影性能だけで言えば、上位機種であるCanon デジタル一眼レフカメラ EOS 7D ボディ EOS7Dとほぼ同じクオリティだし、ニコニコ動画の画面サイズであればこれで何ら問題が無い。というか、レンズさえもう少しいいものにすれば、この解像度(最終的なアウトプット)においてはプロが使っている撮影機材に比べても何ら遜色が無い。


あとAE(After Effects)はCS5からは完全64bit化して(32bit OSではインストールすら出来なくなった)、RAMプレビューの時間が伸びた。16GB搭載しているパソコンなら、ニコニコ動画の画面サイズ(512x384もしくは640x368)なら3分程度までRAMプレビュー出来る。AEは最近ではプロの現場でも積極的に採用されている。特殊な高額なソフトを使うより、AEぐらいのソフトを作業スタッフの人数分だけ買って、分業するほうが作業効率が良く、またAEならばインターネットに情報が豊富にあるからとっつきやすいのだ。そう考えると動画編集ソフトすらもプロが使っているものと全く同じものが(13万円程度で)使えるわけだ。


ぶっちゃけ「ずるい」と思う。これだけの環境(状況的なものも含めて)が整っていればプロの仕事と遜色が無いか、プロ以上のことが出来て当然なんじゃないかと思う。プロ側に何ら有利な部分が見当たらない。こういう状況なのでプロの仕事が見劣りするのはもはや必然だ。そして、ニコニコ動画MMD作品を見ていると「やられた!」とか「これは凄い!」とかもう驚きの連続で、自分で何か動画を作る気がすっかり無くなってしまう。動画からモチベーションをもらうどころかどんどんエネルギーを吸収されてしまう。これはやばい。本当にやばい。