【移調奏】ぼくの考えるあの楽器【最強】


「あの楽器」の説明は、あの楽器でも読んでいただくとして、もし、「マルチタッチディスプレイ上で実現できる楽器を作るとしたら、どのようなものが演奏に最適なのか?」というのは考えるだけで面白い。


ピアノが移調奏に向かないことはいまさら言うまでもない。
ピアノは、C major scale(≒ A natural minor scale)だけが弾きやすいように出来ている。


日本のピアノ教育は普通、バイエル、ブルクミュラーツェルニー100番(まあ、ここまで終わればとりあえず初心者卒業と言えると思うのだが、たいていはみんなブルクミュラーあたりでやめてしまう)と進むのだが、移調奏はほとんど練習しない。


最近でこそ、ハノンと併用してピシュナ*1を用いたりするのだが、だからと言って、移調奏が自在に出来るとは限らない。簡単な曲ならともかく、難しい曲を自在に移調して弾けるのは、限られた上級者のみである。


ポップスのコード進行の分析だと和音の転回形も同じchord qualityとして扱うのが普通だが、実際はCのコードでも転回すれば元の音とは全く違う響き方をする。古典的な和声学においてさえ、I2(Iの和音の第2展開形)→V7という進行において、I2はV7の音が繋留されているものと見なして、I2はtonicではなく、V7の一部(すなわち機能的にはdominant)と見なすのが普通である。(例:バイエル85番)


そこで、まあ、代表的なコード、C,Cm,Csus4,C7,CMaj7,Cm7,CmMaj7,C7sus4,Caug,Cm(#5),C(b5),Cdim,Cdim7,Cm7(b5),C9,Cm9,Cmaj9,C6,Cadd9,Cm(9),etc…をそれぞれのkey(12通り)×すべての転回形に対して即座に指が動くように練習するのが普通である。いや、あんまり普通じゃないのかも知れないけど、まあ、ギターコード見ながら弾けるようになろうと思えば、普通、こういう練習するよね、と。


この転回形というのが、また曲者で、3和音では3通り、4和音では4通りだけと思われがちではあるが、実際はvoicingの仕方はもっと多くの種類がある。closed(密集)にするのかopen(開離)にするのかという基本的な問題のほかにも、例えば、マークレヴィン ザ・ジャズ・セオリーマークレヴィン ザジャズピアノブックで有名な、Mark Levine(彼の本は本当に素晴らしいと思う)のマークレヴィン ジャズピアニストのための ドロップ2ヴォイシングテクニック CD付では、drop 2、drop 3というvoicingが出てくる。


4 way closed(四声密集配置)でvoicingしたあと上から数えて二つ目の音をベース音に移動させるのが、drop 2というvoicingなのだが、これがとても難しい。普通、コードネームを見て、下から積み上げていくが、drop2は上から積み降ろして行くので、未知の体験である。よほどこればかり訓練しないと無理だろう。譜面に書き出せば初見弾きに慣れた人ならどうってことないんだろうけど、「即興で」と言われると出来る人はほとんど居ないと思う。


まあ、話がずいぶん逸れたが、ピアノの鍵盤が、このように調に対して非対称に出来ているがために、多くのピアニストはこれに対して貴重な時間を費やし、死ぬほど訓練してきた(あるいは、現在進行形で「している」)のが実状で、趣味でピアノをやっているような人の場合、普通、そこまで過酷な訓練に耐えられないので、ピアノのこのような構造的な欠陥(?)は本当に悩ましい問題なのである。


かと言って「ピアノを自由に改造して良いからあなたの好きな配置にしてみなさい」と言われたとしてもそう簡単に思いつくものではない。また、世界の一台の楽器だと、気軽に持ち歩けないし、メンテナンスにも莫大な費用がかかる。おまけにSteinwayBosendorferが作ってくれるはずもなく、音はとてもチープなものになるだろう。こう考えるとピアノの代わりを作るのはそれほど現実的なことではないのである。


しかし、マルチタッチディスプレイ上で実現された仮想楽器の場合、それとは事情が全く異なる。


ソフトウェアなのでインストールすればパソコンさえあればどこでも使える。ReWireなり何なりで接続して、Ivoryのような最高のピアノ音源でリアルタイムに再生することが出来る。IvoryではSSR(Sympathetic String Resonance)が無くて嫌だと言う人はPianoteqでもGalaxy IIでも使うことが出来る。下手な特注ピアノを作るよりよほど低コストで汎用性の高い、ハイパフォーマンスな楽器が作れるのだ。「あの楽器」にはそんな魅力を感じる。


そんなわけで、私も「あの楽器」を考えてみた。次の図のように音をアサインする。音楽をやっていた人ならば見た瞬間、私の意図がわかるだろう。



これなら移調奏がすこぶる簡単に出来る。上にひとつずらせば半音上がり、右に一つずらせば全音上がる。Cmのコードを弾いている指使いで、そのまま上(か右下)にスライドさせればC#m、Dm、D#mとあがっていき、右にスライドさせればDm、Em、F#mと変化していく。右上にスライドさせれば短3度あがる。diminished7thなんか、右上がりに音を4つ押すだけだ。



glissandoも、major scaleで良ければ、どのkeyから開始してどのkeyで終了するパターンでも上図のように一定の勾配で指をスライドさせれば良い。


まあ、私はこの配置にこだわりがあるわけではないのだけど、画面上の矩形範囲に対してどの音を割り当てるか自由にエディットできるソフトがあれば、ピアノのようにしたり、上のような配置のようにしたりいろいろ出来て面白いんだろうなぁ。Windows7が出たら私が作るかも。


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