K君の学習メソッド


どこでもありがちだと思うが、私は大学のときに、クラスメイトと麻雀をしようということになった。なかには小学校のときから麻雀をやっているクラスメイトが居て、彼らと麻雀話で大いに盛り上がったのだが、どうしたものか肝心のメンツが足りない。


そこで身近にいる誰かに麻雀を覚えさせて、メンツを増強しようということになった。それに選ばれたのが私と親しくしていたK君だった。K君は新しいことに取り組むのが大好きで、K君はルールを覚えるとたちまち麻雀の虜となり、麻雀の入門書をいくつも買って、そのあとプレステの麻雀ソフトを購入し、しばらく学校にも来ずに、ひたすら麻雀の研究をしていた。


K君が麻雀を覚えて1ヶ月後、実際に全員で麻雀の対局をすることになった。K君と対局するのはこれが初めてだ。そもそもK君は麻雀牌を触ったことすら無かった。K君は洗牌シーパイ(各局の開始時に、まず使用する牌をすべて裏向きに伏せてかきまぜること)のあと山を積む(17枚を上下2段に重ねて並べる)ことすら出来ない。


まわりから手ほどきを受けながら、とてもぎこちない手つきで、17枚の牌を両の手で一気に掴もうとするが、うまく掴めない。仕方ないので、6枚ずつ積むような有様だ。サイコロを振ったあと、牌をどこから取るかもわからず、彼は皆に言われるがままにぎこちない手つきで牌を取る。彼の手は緊張の余り、ぷるぷると震えていた。


彼のその手つきを見た誰もが、ニヤニヤしながら「こいつはいい鴨だ」と思ったに違いない。その麻雀にはわずかながらお金を賭けてやることになっていたので、メシ代ぐらいは彼からもらえそうに思えた。


しかし、半荘が終わってみれば、意外にも彼がトップ。彼には負けるはずがないと誰もが思っているから、意地になって夜通しで半荘を20回ほどしたが、結局、彼はダントツ一位。彼以外は彼に国産黒毛和牛のステーキをご馳走するぐらい負けが込んでいた。否が応でも実力でK君が一番だということを我々は認めざるを得なかった。


K君は、我々から巻き上げたお金で高級レストランにて昼飯を奢ってくれることになり、そこで我々にこう告げた。


「麻雀って面白いね。相手の顔が見えるっていうのはとてもスリリングな体験だった。でも、俺は、麻雀牌を握ってする麻雀は、もうやらないと思う。なにより、半荘に時間がかかりすぎる。プレステのゲームでやっていれば、牌を並べる必要もないし、終わったあと打ち筋を検討したりできる。わずかな時間でもそこからとても多くのことを学べる。正直、俺は今回の麻雀で麻雀が少しでも上達したかと言えばノーだと思っている。今回の麻雀は、確かに楽しかったけどそこからは得たものは余りにも少ない。今回、唯一俺が得たものは、このお金だったが、それもこうしてすべて(奢るために)吐きだした。わざとすべて吐きだしたんだ。俺は今回得たものを何もかも吐き出したかった。それは、こうして俺は今回の麻雀では得るものは何も無かったという形にして終わらせるためにだ。」