ショートコード本裏話
買われた人は、本の赤い帯に「プログラムソースの短縮化にかけた職人たちの熱き想いをここに一挙公開。バイナリ埋め込みからmain再帰まで、伝説のショートコードが満載。あなたはいま、歴史の目撃者になる!すべてのプログラマに贈る、プログラミング熱を呼び覚ますこの一冊!」という文言が入っていることに気付いたと思う。これが何なのかをここに記しておきたい。 |
もともと、この本は企画段階から「ショートコーダ伝説」という本のタイトルにしようと思っていた。著者のOzyさんと私には、このタイトルにはかなりの思い入れがあった。私は最初冗談でそのタイトル(仮タイトルのつもりだった)をつけたのだが、次第に二人は本気になって行った。それは友の死があったからである。
2007年が明けて本格的に執筆活動に入った矢先、突然の訃報に接することになりました。namasuteこと木戸浩正さんが、大学卒業を目前に逝去されたのです。彼は1145番のときから、常に「一歩踏み込んだショートコーディング」で数々の記録を打ち立ててきました。あまり多くを語らない彼でしたが、そのコードからはすばらしいアイデアと努力、他の人間にはないセンスを感じることができました。「そんなバカな」と思う方もいらっしゃると思いますが、短い数十文字の記号の羅列から、その何百倍ものメッセージを、私は受け取っていたのです。私にとって彼は、1バイトの友でありました。彼が優れたプログラマであったこと以上に、自分より若い人間がこの世を去ることは耐え難いものであります。
『ShortCoding』 P.381
彼の訃報を聞いて、「ショートコーダだから、(コードだけでなく)命も短く縮めちゃったのかねぇ」と私はOzyさんに真面目な顔で言った。彼は残すべきものをたくさん抱えながら、逝ってしまったのだ。
だから本のタイトルを「ショートコーダ伝説」にして、単なる技術書としての枠を超え、ショートコーダたちの足跡、そこに関わってきた人間と、彼らの想いと美学、そしてそこにあるドラマを書き記したものにするつもりでOzyさんは執筆に励んだ。
それが、本の原稿をOzyさんが脱稿してまもなくマイコミの編集の人に「ショートコーダ伝説だと伝記みたいだから駄目」と一蹴された。この一言で私は怒り心頭に達し「このタイトルでなければ、マイコミからは出さへんで!」と言ってよその出版社に持ち込んでやろうかと思ったのだが、そのようなことはnamasuteさんも望んではないだろうと思い、Ozyさんとゆっくり相談した。
「タイトルは百歩譲ってShortCodingにしよう。だけど、帯に読者に向けてのメッセージを書きたい」ということになり、私が考えたのが、今日の冒頭で紹介したキャッチコピーだったのだ。ちょっと大げさかな?とも思ったが、Ozyさんは気に入ってくれたようで、マイコミからのokも出た。
まだ本を買っていない人も是非「歴史の目撃者」となっていただきたい。