エロゲー製作は大変ナリよ(3)

さらにひどいことに、エロゲーの開発予算というのは著しく少なかった。これは当時弱小メーカーでは1タイトル当たり2,000本前後しか売れなかったからであり、時として1,000本を割ることすらあった。6,800円のソフトを定価の45%〜50%で流通に卸す。CDプレス等の費用を差し引くと1本あたり定価の40%程度の粗利率。6,800円で粗利率40%であれば2,720円の粗利。1,000本売れたとして272万の粗利。しかもこの計算は1,000本作って1,000本完売したケースであって実際には作りすぎて売れ残ったりする。


ここから広告代や開発費を捻出しなければならない。1つの雑誌に1ページ載せるのに20万程度かかる。スポットで3ヶ月×4誌×20万 = 240万。開発費が32万しか残らない。(だから、弱小メーカーは広告なんかほとんど打てない)


まして売れるか売れないかを決するのはグラフィッカーの腕にかかっているのでこういう状況だとプログラマに予算なんかほとんど割けない。だから弱小エロゲー会社では力のないプログラマが低賃金で雇われることが多かった。アルバイトなら(最低賃金法の基準は守られるので)まだいいほうで、「一作完成していくら」という契約がほとんどであり、まともなものに仕上げようと思えばかなり技術力のある技術者が6人月ぐらいかかるソフトウェアなのに数十万で開発を頼まれるということも珍しくはなかった。


そしてそのように安い賃金で雇われるプログラマが高い技術力を持っていることは(常識的に考えれば)非常に稀であり、また昨日のエントリで書いた通り、当時のマシンでまともなフレームレートを出そうと思うと非常に高度なプログラミングを要求されたので、開発予算から逆算しても他人のライブラリを使って作るのが妥当であった。あるいは、プログラマとしてはエフェクトも何も無しの「本当に紙芝居だな、これ」と思わせるソフトを作るしかなかった。


それゆえ、オープンソースとして公開していた私のyaneuraoGameSDK1st/2ndが当時弱小メーカーの作る多くのエロゲーで“密かに”採用(あるいはソースの一部流用)されてたことは言わば当然の帰結であった。私としては、そんなに他社のプログラマに使われるとは思っていなかったのだけど結果として案外使われていた。


ただし私のGameSDKを採用した弱小メーカーは多数派ではない。弱小メーカーのうち大多数は私の知る限りSDL(を使ってのプログラム)か、NScripter吉里吉里などのノベルゲームに特化されたフリーのスクリプト言語(と言っていいのかな…)を用いていたと思う。


彼らプログラマとしてもこれは死活問題であり、低予算で短期間で作り上げるためには、他の選択肢に乏しかったのが当時の状況だ。(つづく)