ICOTの遺したもの

知識情報処理シリーズ


渕一博氏、ご逝去 のニュースを知った。渕一博氏はICOT(第5世代コンピュータ)プロジェクトを牽引してきた人として有名だろう。


私の本棚にある知識情報処理シリーズ全巻(今日の写真)は、渕一博氏が監修されたシリーズであり、現在では何冊かは絶版状態にあるが、このシリーズは私にとって宝物である。プログラマの人には絶版にならないうちに『プログラム変換』(asin:432002267X)や『並列論理型言語GHCとその応用』(asin:4320022661)など、興味のある分野のものを買っておかれることをお勧めする。


一応、参考のため、シリーズすべてのisbnコードを示しておく。『メンタル・モデルと知識表現』(asin:4320022610)、『知識の学習メカニズム』(asin:4320022629)、『知識の帰納的推論』(asin:4320022637)、『自然言語の基礎理論』(asin:4320022645)、『インターフェースの科学』(asin:4320022653)、『知識プログラミング』(asin:4320022688)、『定性推論』(asin:4320024680)、『制約論理プログラミング』(asin:4320024699)だ。


ICOTに関しては、多額の投資に対してたいした成果をあげなかったという批判が無くはないが、もともと実現困難であること(かつ、何らかの成果が出せるもの)に取り組むのがICOTの趣旨だったので、自動定理証明の分野で、群論の定理を証明したり、当時最速の推論エンジンを作ったりしたわけだからプロジェクト自体は成功だと思う。


私は、法的推論システム HELIC-II(へりくつ?)ひとつにしても、ストーリーの自動生成にも似てとても面白いと思うのだけども、このへんは世間ではあまり評価は高くないのが残念だ。


そう言えばICOTはつい先日まで「AITEC・ICOTアーカイブス」 DVDを無料配布していた。当時の成果をまとめたものだ。このDVDを取りまとめていた内田俊一先生は、この6月に急逝された。内田先生は、ICOTの研究部長、後継プロジェクトの研究所長、先端情報研の研究所長を歴任していたのだけど、このDVDのとりまとめが最後の仕事となった。「それではICOTアーカイブスはこのあとどうなるのか?」と私が佐藤博先生に尋ねたところ、以下のようにご回答をいただいた。


当協会の調査部のものも事務方として第五世代コンピュータプロジェクトに参加しましたが、
内田さんが亡くなった今、できるだけ多く配布することが、できることかと思っております。

(財)日本情報処理開発協会のなかに、
http://www.icot.or.jp/
は当分の間、置いておく予定ですので、
第五世代アーカイブスはしばらく公開します。

また、第五世代で作られたソフトをワークステーションで利用できるようにしたKLICについては、
東京大学の近山隆先生主催のKLIC協会で引き継いで公開しています。
http://www.klic.org/

技術的な内容については、近山先生が意思を引き継いでいただけると思っております。

そんなわけで、興味のある人はいまのうちに好きなだけローカルに保存しておくべきだと思う。