人は皆、bit列の前に平等である

うちの会社で仕事をしてくれていたI君が一身上の都合でやめてしまった。ただ、そうは言ってもやりかけのソースを確認してみたらこのあとうちの会社の敏腕プログラマ連中を動員しても残りの期日でこなせるのか微妙なラインである。よくこんな状態でI君は「予定通り出来てます」とか言ってたなぁと思う。I君は出来そうにないから投げ出したのかも知れない。私にはそのへん、知りようがない。


ただ、少なくともI君によって中途半端にして放り出されたプロジェクトのしわ寄せで残された者たちはてんてこ舞いになった。私はU君に、相談した。「彼が抜けた穴を埋められるか」しかしU君は「サブでならともかくメインでは出来ません」とのことだった。


正直言ってU君は、給料分稼げていない。彼は仕事が遅すぎて、受注金額を完全に上回っている。おまけにまともな設計も出来ない。「未経験の分野なので」というのを免罪符のように振りかざし、(ホントは未経験かどうかの問題ではなくてU君の問題解決能力が余りに低いことに起因するんだけど)そのことに彼に関わるうちの社員からの不満も相当にあがっていた。何度も、私は彼の作ったプログラムの不都合でお客さんに呼び出されたり、真夜中に電話がかかってきて対応を迫られたりと、ここ数ヶ月は彼のせいで頭痛がとどまることのない毎日であった。それでも私は彼自身の成長につながるのならばいいと思って、ここまでやってきた。だけど、もう限界だ。さすがに他の人が5分やそこらで出来ることを2日も3日もかけて、なおかつまともに出来ないのではこれ以上はかばい切れない。


私はU君に言った。「このまま自宅で作業をしてもらっていてもまともに仕事が出来るとは思えない。会社に出てきてやってもらえないか?」


だけど、U君は嫌だと言った。その真意は計りかねない。もうこれ以上怒られるのが嫌なのかも知れないし、自分ではもうどうにもならないと思ったのかも知れない。私は彼と決別を受け入れることにした。とても悲しい最後だった。出来ることなら、こういうことを何度も繰り返したくない。


I君やU君のような出来ない君を私は何故採用してしまったのか。私は、彼らの実績を過大評価してしまっていた部分があるのだと思う。それでろくに採用試験もせずに採用してしまった。あとになって、余興でやねう企画の試験問題(id:yaneurao:20050929)をやらせたらU君は「二項定理ってなんですか?」、I君にいたっては1時間半もかけて一文字も書けず。問2なんかは「プロならば再帰、非再帰ともに瞬殺、5分ぐらいあれば解けて当たり前。10分かけて解けないほうがどうかしている」ぐらいに思っていた私は、あまりのひどさにびっくりして腰を抜かす結果となった。


そもそも、うちの会社の掲げる“実力主義”とは非常に冷徹で、そして時として過酷な理念だ。うちの会社で一番仕事の出来る21歳の青年の年収は(おそらくは)800万ぐらいになる(と思われる)というのに、かたや、U君のように30歳まぎわであっても月15万(その金額分の仕事すら実は彼は出来ていない!)という現実。この現実を私は、そして、U君は受け入れなければならない。


プログラミングには嘘も偽りもない。プログラミングは、出来るか出来ないかだけだ。お客さんの前で騙し騙し動くプログラムであったとしても、結局のところプログラマは自分自身の書くコードにだけは嘘をつけない。そこには、学歴も実績も年齢も何も関係ない。人は皆、プログラム(bit列)の前に平等なのだから。