我は知を探求する者なり!(14)

業者はほぼ間違いなく(FOMAFOMA以外かの)判別を行なってからスパム送信を行なうという結論にはならないか?


ならない。電源を切っておいたFOMAスパムメールが届いたことがそれを物語っている。


では、どうして、業者は判別を行なわずに送信する場合があるのか?


すべての業者が“判別”を行なうソフトを持っているのではないということを意味する。すなわち、いくつも業者が居て、それぞれの業者がそれぞれの流儀でスパムを送信しているということだ。


結局、FOMAの番号の洗い出しを行なう専門業者は居ないということなのか?


少なくとも、スパムを送信している業者の1/4は番号の洗い出しすら行なっていない。また、残りの3/4も、非通知テレビ電話の着信履歴が複数残っていることからして、そういう業者を利用している可能性は極めて低いと考えられる。


スパム配信を行なっていた業者はいくつあるのか?


自分の携帯に着信したスパムメールの送信元の電話番号の存在する地域を調べてみたところ、配信業者は全国各地に散在していた。すなわち、配信業者は無数にあると考えられる。


本当に複数の配信業者なのか?たった一つの業者が全国各地に拠点を持ち配信しているだけではないのか?


なんのために?


たとえばひとつの基地局のエリア内に端末を集中させると、回線が輻輳して送信効率が落ちるからとか?


それは考えられない。それならば、わざわざ全国各地に散らばる必要はない。基地局iエリアの粗密度に近い状態で配備されていると仮定できる。すなわち、iエリアが細かく分かれている東京においては、非常に狭い範囲で基地局が密集していると考えることが出来る。もし、基地局がひとつで回線が輻輳するというならそのような都心部で何箇所かアパートを借りればいいだけで、わざわざ全国各地に散らばるのは無駄だと言わねばならない。


すなわち、星の数ほどの配信業者が居るということか?


そうなる。


では同じく債権回収業者も星の数ほど居るのか?


それは考えにくい。なぜなら、銀行に対して架空請求に使われているという連絡があった時点で銀行口座は凍結されてしまう。また、詐欺事件として警察に立件されてしまう。だとすれば、口座は架空の口座か、ホームレスのような人たちから買いとった口座でなければならない。そのような口座を誰もが用意できるわけではなく、限られた人たちのみということになる。また、口座の凍結に備えて、頻繁に入金確認と出金に行く必要がある。すなわち債権回収業はある程度の規模で行なわなければビジネスとして成立しない。


本当にそうか?


試しにスパムメールに書かれているURLを片っ端からクリックして調べた。スパムの発信元として東北地方のものがあったが、債権回収のためにかかってきた電話は東京の番号からだった。電話を受け取ると、男は「当社は債権回収を行なっており、業者から債権譲渡を受けました」と言った。「あー、そうなんですか。使った覚えないんですけど。業者ってどこの業者ですかねぇ?」すっとぼけた様子でそう訊ねると、男はその業者名と自分の業者名を教えてくれた。「ああ、そうなんですか。ご親切にありがとうございます。これで架空請求詐欺の調査が進められます。本当にありがとうございます」私はそう言って電話を一方的に切ったが、男から二度とかかってくることは無かった。私はこのようなことを繰り返し、さらに追跡調査をすることによって、組織全体の樹形図を描くことに成功した。そして私の予想はだいたい当たっていることを確信したのだ。
(つづく)