場面屋

麻雀好きならば場面屋という言葉を聞いたことがあるかも知れない。雀鬼桜井章一氏の造語で、「ある局面において、その後の流れを決定づけるような動きをする者」という意味らしい。


たとえば、onlineで書籍をdownload販売するサイトを立ち上げたとする。たちまち、世間の注目を浴びる。最初は苦しかった経営が、徐々に軌道に乗り、「いまから損を取り戻せるぞ!」って時に、大手(たとえばAmazon)が、同じことを始める。もちろん、大手のほうが営業力もあるし、お金をかけられるので大掛かりにやってくる。こちらは、世間の関心を集めただけで、まったく儲かっていないのに客はすべてAmazonに流れてしまう。こういうのを「場面屋」と呼ぶ。この場合、呼び水としての役割をしている。


ビジネスの世界では、計算高い人ほどよくこの手の失敗をやらかしてしまうことがある。私の知り合いのKさんは、Windows3.1のころにWindows95が出れば、Windowsユーザーはこれくらい増えるという予測を立てた。パソコンはこれくらい売れて、CPUはこれくらいになって、こういうことが出来るようになる、と予言した。まだMS-DOS上で一太郎を使っているころで、私からしてみればKさんの予言は夢物語のようだった。Kさんは、「だからWindows用のこれこれこういうビジネスをしたらこれくらい儲かる」と言って、それを始めた。


実際、Kさんの予想は正確に当たり、WindowsユーザーはKさんの言った通りに増えて、パソコンのスペックはKさんの予想通りになった。ホント、Kさんは先見の明があると私は思った。Kさんの考えた商売は脚光を浴びた。だけど、Kさんのビジネスは失敗に終わった。最終的に大手の同業他社が参入してきたからだ。


「これくらいの市場規模になるから、これくらいの収益が見込まれる」だとか「これくらいの潜在的ニーズがあるから、これくらいの売り上げがあがる」というのは、実にあやうい論理なのだ。採算ベースに乗るのならば、同業他社が次々と参入してくるのは目に見えている。もしビジネスで勝ち残りたいのなら、それを振り切るだけの何かがなければならない。