Lydian Chromatic Concept(5)

前回の続きで、音程根音(interval tonic)について考えていく。音程根音というのは、ヒンデミットの原理(Hindemith's principle)としても知られている。


音程根音を説明するには、結合音を知らなければならない。結合音とは、二つの音が同時に鳴ったときにそれ以外の音が聞こえる物理現象のことを意味する。周波数a,bの音が鳴ったとき、a+bとa−bの周波数の音が聞こえる。前者を(第一次)加音、後者を(第一次)差音と呼ぶ。後者は、バイオリン奏者のタルティーニによって発見されたため、タルティーニ音とも呼ぶ。また差音のほうが聴き取りやすい。このへん、興味のある人には「音楽の物理学」(ISBN:4276123704)をお勧めしておく。


この結合音は二つの音によって強化されるので、その二つの音の根音となる。これが、ヒンデミットの音程根音という考えかたである。古典的な和声学では上方倍音を重んじたのだが、このへんを契機として、下方倍音という考えかたが和声学に現れてくる。そのための道しるべとしてまずは、差音について簡単な計算をしてみよう。


ある周波数の音aがあって、そこからP4上の音b,P5上の音cがあるとしよう。周波数の関係は、計算の便宜上、12純正律で考えれば


b=4/3×a
c=3/2×a
である。よって、aとb,aとcによる第一次差音は、

b−a=1/3×a=4/3×a/4=b/4
(aの2オクターブ下の音からP4上の音=bの2オクターブ下の音)
c−a=1/2×a
(aのオクターブ下の音)
と、何とP4,P5の場合、差音として、鳴らしている2音のどちらかとオクターブ違いの音が聞こえるのである。


ところが、P4,P5が正確に4/3,3/2倍の周波数でない場合(我々がふだん聞いている音楽のほとんどは12平均率であり、これに属する)、これらの差音がどうなるか考えてみよう。δだけの誤差を含むとすると、


b=(4/3+δ)×a
b−a=(1/3+δ)×a=(4/3+4δ)×a/4
(aの2オクターブ下の音からP4上の音にδの4倍のズレを加算した音)
と、何とこのズレの4倍もの誤差が累積してくる。このことは何を意味するだろうか?(つづく)