親知らずの痛みはガチ


私が大学生のとき、親知らずが虫歯になってひどく痛んだ。


「虫歯なんてものは我慢してりゃそのうち腐って抜ける」という先輩の言葉を信じ、そのうち腐って抜けるんだろうと思っていたら、腐りもしないし抜けもしない。



痛みだけが日に日に増して、ラーメンの水蒸気を顔に浴びたとき、そこからバイキンが入ったのか、恐ろしい痛みが奥歯周辺の歯茎に広がり、これは本格的にやばいなぁと思っていたら、しばらくすると継続的な痛みとともに顔の左半分が腫れてきたのでビニール袋に氷を入れて冷やすことにした。


そうしていると大きな痛みが5分ごとに周期的に襲ってくるようになった。その間隔が次第に短くなる。


5分が4分に。痛みのピークもさらなる高みへ到達した。なぜこんなに痛いのかよくわからない。脳の神経に近いところだから痛いのか。


4分が3分に。あふれ出る涙。涙が滝のように流れる。涙。涙。涙。そもそも左手を骨折したときさえこんなに痛くはなかった。


3分が2分に。痛みのせいか、鼻水が出てきて止まらない。自転車に乗っていたときに車に跳ねられて、弾き飛ばされて自転車が大破したときもこんなに痛くはなかった。


2分が1分に。口が半開きのまま閉じられない。顔面の神経が麻痺した。よだれがとめどなく流れる。


1分が30秒に。涙は鼻水と合流したあと、よだれとも合流を果たし、土石流のように流れ落ちる。ギャグ漫画でも見たことのない下品な光景だ。一言で言うなら、駄々漏れ。


30秒が20秒に。痛みは最高潮になり、脳みそを金槌で打ち砕かれているんじゃないかというほどの痛みが襲ってきて、自分の頭がきちんとそこにあるかどうかが不安になり、手で何度も何度も頭蓋骨の形状を確認する。おい、俺の頭は破損していないか。おい、俺の脳みそはそこらかしこに撒き散らかっていないか。


20秒が10秒に。痛みはさらなる高みに達し、失禁する。



そして、10秒からエンドレスで継続的な痛みに!


ガーン、ガーン、ガーン!という連続的に金属バットで頭蓋を殴打されているような激しい痛みが。やめて。マジやめて。それ以上やったら死んじゃう…。



発狂寸前の私は工具入れからペンチを取り出し(大きいペンチしか無かった)、自分の顎を外れんばかりに大きく開き、ペンチをおもむろに突っ込み、その親知らずをペンチの先でつかんだ。



「死なすぅぅぅううう!!!!」と叫びながら、力いっぱいペンチを引っ張りあげた。



ミシミシ…メリメリ…ゴリゴリゴリッ!



骨を伝って、歯が抜ける音が耳の裏から聴こえてきた。リアル骨伝導だ。



その親知らずを抜くと大量の血が噴出してきたがそれはガーゼを当てておけば30分ほどで止まったし、もはや痛みもさほど残ってはなかった。原理はよくわからないが歯を抜くと痛みはやわらいだ。


ただ、その日から頭の毛根からは白い髪が生えてきて数週間すると、私の髪の毛の1/3ぐらいが白髪になった。しかし半年ほどすると次第に元の黒髪に戻って行った。


その後、私は逆側の親知らずが痛んだことがあるが、前回の教訓を活かし、そのときは早めに歯医者に行って抜くことにした。


そのときにわかったことだが、バファリンなどの鎮痛剤を飲むと、痛みの波はくるが、ピーク自体がこないのだ。ピークが来る前に痛みの波の高さがピークの7割ぐらいのところでそのまま横ばいになる。


だから親知らずが痛み始めた人は鎮痛剤を手元に用意しておくべきだ。歯医者に行くまでに鎮痛剤さえあれば発狂するような痛みから解放される。



ともかく、親知らずの虫歯は人類が知覚できる最大の痛みなんじゃないかと思う。